2017年1月16日月曜日

成人先天性心疾患学会

 成人先天性心疾患(adult congenital heart disease, ACHD)については何度かこれまでにも紹介した。成人で先天性とは、と何かおかしな名前であるが、この領域は歴史的に見て小児の先天性心臓病(生まれつきの心臓の異常で、沢山の病気がある)の外科治療から始まっているので、小児心臓血管外科、小児循環器の専門医が集まって研究が始まった。そして今では手術を終えた多くの患者さんが成人期に達するようになり、その方々は種々の問題、遺残病変や合併症、中でも慢性心不全を呈するようになることから、その分野に特化した多職種の専門分野の連携の必要性が問われてきた。英国ではGUCH (grown-up congenital heart、成長した先天性心疾患)として診療体制や研究、統計疫学、が進んでいる。名前が有名なブランド品に似ているが、英国人らしいユーモアを感じる。米国でも専門医や専門看護師も出来てきている専門分野であって、我が国でもこの分野の学会が始まってもう20年近くなる。今回第19回の学会が三重県は津市で、三重大学産婦人科教室の池田智明教授が会長で行われた。何故産婦人科の教授が、ということは後で説明するとして、幾つかのトピックスを紹介したい。
この学会はいつもこの時期に行われるのが習わしであるが、今回は日本中が大寒波襲来で冷え切っていて津市内も雪が舞うなか、学会会場は駅前のホテルで、300人位(不確か?)の参加でホットな雰囲気で行われた。そもそも学会会員は800人程度で、医師(循環器、小児循環器、心臓外科、産科、放射線科、麻酔科など)に加えて、看護師、検査技師、心理士の方々も参加している。学会の前日には三重大学医学部のこの分野の関連の先生の講演があったが、川崎病の最近の動向、心臓外科の進歩、放射線科での診断法の進歩、などであった。川崎病は先天性心疾患ではないが、冠動脈に異状が生じる病気で、日本で流行的に発症し、その特な病態から新たな疾患として認められ、発見者の川崎博士の名前が付けられた。かってこの病気が世界で注目され、川崎病として広まったころに、神奈川県の川崎市のどういう方かは忘れたが、名前を変えくれというクレームがあったと聞いているが、今はそういう話は昔話になっている。とはいえ、この病気歯まだ発生数は減少しておらず、また原因はすぐにわかるような雰囲気であったが、今回専門の方に聞くと、まだ全くと言ってもいい程原因は分かっていないとのことで、病気の原因を突き解けることの難しさを改めて感じた。因みに、初期治療の方針が固まっていて、冠動脈バイパスや心筋梗塞になる頻度歯減っているということであった。
さて、肝心の成人先天性心疾患では、学会会長や英国の招請講演者も産科の先生で、手術後や心臓病を持ったままで妊娠出産となる患者さんが少なくなく、母子の安全や健康管理での英国での進んだシステムが紹介された。この分野もそうであるが、心不全管理や再手術、ひいては心臓移植などの全体像を見れる診療体制の必要性、基幹病院への集約が必要ということであった。我が国でも問われることである画、専門分野の他職種連携と集約が大事であるが、我が国ではこれがなかなか進まない課題でもある。招請講演者のPhilipp Steer教授は英国での傾向として若い人が簡単に妊娠する傾向があり、心臓病を持った若い女性への啓発活動や心臓病のスクリーニングが必要とのことであった。出産前に胎児の発育遅延が見つかり、その原因が先天性の心臓病が隠れていることもあるという話しであった。
もうお一人英国のこの分野の専門であるMichel Gatzoulis博士の講演では心不全の話があり、大変興味深かった。先天性心疾患術後はすでに慢性心不全の患者群に入り、特別な注意でもって対応が要ること、再手術やカテーテル治療、デバイス治療が紹介された。私は討論時に、心臓移植についての我が国へのアドバイスや、移植に至らないような治療体系もことを質問させてもらった。難しい話であるが、これも集約したセンターで対応すべきであり、また補助人工心臓の応用もこれからの課題で、期待されているとのことであった。
最後に我が国の演者のシンポジウムで、フォンターン手術の再手術の話があった。このテーマであるフォンターン手術は私のライフワークでもあり、興味があり、議論にも参加させてもらった。特に術後の肝障害についてはまだまだ問題解決には程遠く、肝硬変になるリスクの解析や心臓移植以外の対応など、今後の課題として残されていた。 私はもう手術にお参加はできないが、術後患者さんのフォローの中で、何か貢献できればという思いを深くした。

学会中から予想通り雪が降り出し、津市内も白くなってしまい帰りの交通が心配されたが、近鉄は特に遅れもなくなっていてトラブルなく帰ることが出来た。以上、津の学会の報告でした。

                   ホテルから津市内の写真。伊勢街道が見えています。






2017年1月3日火曜日

明けましておめでとうございます。

 新年、明けましておめでとうございます。皆様、良いお正月をお迎えのことと思います。この3が日、関西も大変穏やかな日和で、正にお正月、といった感じでした。とはいえ初詣に行くわけでもなく、年賀状と箱根駅伝を楽しむくらいでしたが、新年のスタートをのんびり過ごせたので後は少し気合を入れないといけないかなと思っています。明日から仕事初めですが、病院にいることが自分の生活の一部というか土台でもありましたので、状況は変わってもやはりそこでどう生き生きと過ごせるか継続した課題でしょう。というのは、大学時代は毎年の目標があるというか立てないと話にならなかった訳ですが、今の状況ではそういう環境ではなく、如何に世の中や周りの皆さんとうまくやっていけるか、あるいは取り残されないか、迷惑をかけないか、そんな気持ちでの仕事始めではないかと思います。
どうも年末以来、気合の入れ方が鈍っているようですが、それは受け入れないといけないし、その前提でこれからどう進むかを考えることが大事かなと思います。人間、何かはっきりとした具体的な目標が立てられる時は良いですが、何となく惰性になった時にどう乗り切るか、そこが大事なのかというのが、あえて言えば新年に当たっての気持ちかもしれません。
さて、この1カ月程は少し紹介したレビュー論文作成が日々の仕事でした。成人先天性心疾患という領域の話ですが、子供さんの時に生まれ付きの心臓病の大きな手術をして元気になった方やまだ不十分で何とか大人になった方などが、大人になって不整脈や心不全が起こってくる方が少なくなくありません。小児循環器医や大人の循環器医、そして心臓外科医、不整脈治療専門医などの連携で治療体系作りが進んでいます。私が子供さんの時に手術をさせてもらった方がもう大人になっている訳で、ほとんどの方は特に治療は必要としないで経過観察していますが、再手術の時期になったり、患者さんによっては心臓移植を考えないといけないような重篤な問題が生じている方もおられます。
このテーマでは以前にも書いていますが。米国や欧州では成人先天性心疾患の治療体系も進んでいて、さらに心臓移植の実績も増え、今はどういう状況で移植の判断をするのかが懸案事項になっています。ドナー不足とはいえ、米国と欧州の心臓移植の統計では毎年100例以上の成人の方が移植を受けています。残念ながら日本ではこれまで300例以上の心臓移植のなかでこのカテゴリーに入るのは1例のみです。待機中の方は数人おられると思いますが、心筋症の方と違った病態や症状であり、同じ土俵で待機することには問題がある、というか不公平感があることから、米国では心臓移植の優先順位の改定も検討されています。しかし我が国ではまだ全くと言ってもいい位検討も始まってもいません。日本で成人先天性心疾患の心臓移植は何も見えないと言っていいくらいの状況です。そういう選択肢があることが世に言えない状況でもあります。手術をした後のフォローがそれではいけないのです。
ということで、成人先天性心疾患における心臓移植の役割と現状、将来展望、という題で総説を書いています。英文なので四苦八苦していますが、関連する論部(海外だけです)70以上になり、これをどうまとめるか、日本の関係学会の雑誌に採用されるようどうすればいいか、など思案中です。とは言え、今日でドラフトはほぼ出来上がったので、あとは枝を削いで、読んできただける内容に纏めていくことになります。英文の校正もいりますが、今月中の投稿できればいいなと思っています。ということで、今年の出だしも何とか前向きになったかと思います。年末の気分とはずいぶん違っていて、やはり新年だ、という所でしょうか。
このブログ、今年も何とか続けたいと思っていますので、陰ながらのご支援をお願いします。頑張ります
 
 
 
 

 

 

 

 

2016年12月31日土曜日

大晦日


     もうあと数時間で新年を迎えようとしています。12月になってまだ1件しか更新出来ていないこの状況は何とも歯がゆいことでありますが、何かが欠けて来たのか、年のせいか、気力なのか、環境の変化か、など考える暇があったら何かネタ探しをしたらいいのですが。というような状況で年を越すことになりました。実は今週の初めから志賀高原に行っていて、3日ほど滑ってきたのですが、そのせいかもしれません、気が抜けているのは。それと、ある研究費申請の審査を引き受けていて、かなりの仕事量を今月中に終わらないといけないことと、そしてこの1カ月程は「成人先天性疾患と心臓移植」の総説(英文です)を書こうと頑張っていることも影響しているのかと勝手に思っています。いい加減な言い訳です。

今年は信州も雪不足で途中少し雨になっていましたが、その後は冷え込んで新雪も積もってまあまあの滑り出し?でした。とはいえ、昨シーズンは殆ど滑れなかったことや、4月にはまたまた整形外科の手術を受けたりして、雪上の調子が戻るのには時間が掛かりそうです。段々と体力や筋力が落ちてきたのかもしれませんが、自転車での頑張りで何とか持ちこたえているという状況です。しかし、もう後期高齢者に入りましたらから、こんなものなのでしょう。

医療事情関係では専門医制度や高齢者医療などで言いたいこともあるのですが、以前ほど力が入らなくなったのも年のせいかもしれません。ということで、実は今日で少し休ませてもらう宣言をしようかと思っていたのですが、それでは年も越せないし、本当に頭も年をとるのでそれは止めました。

ということで来年も何とか続けてみようと思いますが、またいつ終了宣言するか自分でも分かりません。もう少しお付き合い下さい。

何とも元気のない最終原稿で失礼しました。年が明ければまた元気になるでしょう。
 
では皆様、良いお年をお迎え下さい。

写真は志賀高原の入り口の丸池付近です。ここからバスでかえりました。気温はマイナス8度となっていますね。寒いでした。
近くの野沢温泉で大学のスキー部が大会に参加しているのですが、今回は応援にも寄らずに帰りました。

 

2016年12月19日月曜日

師走に入って


 何となくダラダラしているうちにもう12月も後半に入って、世の中師走ムードです。そろそろ何か書かないと、と思いつつやっと重い腰(筆?)を上げてみたのですが、あまり突っ込んでいけそうな話題もなく困っています。取り敢えず最近の周囲の話題を少し取り上げてみます。
世界の動きとしてはトランプとプーチンが話題を独占しています。トランプ候補が大方の下馬評をせせら笑う様にクリントン女史を破って次期米国大統領になってしまいました。米国の大手新聞やマスメディアも予想が当たらず形無しです。それでも米国の大統領選挙を見て、かって世界を仕切っていたあの大国でも内部はがたがたになっていることも分かりました。よほど危機感があったのかヒラリーさんの人気がなかったのか。はたまたロシアからのサイバー攻撃でトランプ氏が有利になったとか、世界は一体これからどうなるのか。EUがおたおたしている間に二大巨頭国に中国が割り込んできて、世界の政治構図が変わるのではという予想もされています。
そういう中で、我が国の首相は人気取りというかパーフォーマンス好きで、さっそくトランプ氏に面会したり、プーチン大統領とは山口県の田舎の温泉で接待をしたのは良いが結局領土問題は解決どころかその道も遠のかせてしまった、という論調になっている。世界の指導者の強かさに、今あらためて気づく日本かな、でしょうか。政治のことは書かないことにしていましたが、年末放談、ということでお許し願いたい。
さて、医師の専門医制度改革が頓挫して、今は少し立ち止まって頭を冷やすタイミングになっている。と思っていたら先日の専門医機構の理事会は制度指針の改定案を承認したという。社員総会の承認を得たら確定され、その指針にそったプログラムを各学会(制度)が策定し20184月から卒後3年目の医師にこれを当てはめていくというシナリオである。その内容はまだ十分公表されていないが、報道では基本領域はプログラム制で進めるということでこれまでの改革路線が引き継がれる。しかしである、サブスペシャルはカリキュラム制も選択してもいい、とある。何や、ということである。カリキュラム制はこれまでの制度のことで、決められた臨床経験を踏むことが基本となり、これでは制度間の標準化や質の担保はどうなるのか。ここまで後退するなら、いっそのこと全部白紙にしてやり直すくらいしないと後々禍根を残す。グローバルには遅れたままになってハワイ大学の町教授のおっしゃる医師の生涯教育の鎖国状態が続く。いま、医師の社会的評価は決して高くないし、どちらかというと低下して来ている。自分達の制度は悪くなく改良する必要もない、という独善と無知が白衣の下に見え隠れしている。裸の王様、の類で、もう何をか言わんや、である。
先日、神戸で医療機器開発のセミナーがあった。私が委員長をしている、神戸市と先端医療振興財団がバクアップの「医療機器等の事業化促進プラットフォーム」が企画したものである。最近は厚労省も経産省も挙げて医療機器開発で日本産業を活性化しようとしている。厚労省の医療機器管理審査分野の課長さんが来られて講演されてが、一つだけここでも触れたくなることが紹介された。それは医療器の単回使用の原則が変わりつつある、ということである。内視鏡やカテーテル治療機器は多くが使い捨て、ディスポ、である。何万円もするものを滅菌消毒して再使用することは禁じられている。感染防止と安全性担保、のためである。もったいないから再使用したいが、これは単回使用製品(Single Use Device, SUD)だからダメ、となる。違反すると、病院長が記者会見で頭を下げることになる。
このSUDの仕組みが一部で変わりつつあるという。まず欧州で始まったことで、再滅菌や消毒、安全性の確認、などを製造した会社ではなく別会社がその資格をとって再使用品を販売する仕組みである。もとの製造側は特に変える必要はなく、これまで通り販売する。まだまだ使える機能があるのに、しかも高価なものを、いったん滅菌パックから出したら再使用できないとか、患者さんに短時間使った後でも再滅菌はだめ、と決めつけるのはおかしい、という発想から出てきたと想像される。日本的発想であるが、これが欧州で始まった。EUであるから出来たことかも知れない。日本はここでも後進国である。その制度を厚労省は導入することを決めたという。医療機器は多くは輸入品でコストも高い。この新制度で医療費が安くなればいい、という話。患者さん側は、私に使うのは新品とちゃう(違う)やつか、そんなことええんかという疑問が出るかも(大阪で?)。でも心配なく、これも新品扱いになる。ただ、少し安いから、関西人には受けるかもしれない。薬のジェネリックの医療器基版かもしれない。

ということで、今回は気ままに書かせてもらいました。

2016年11月29日火曜日

リビングウイル


  早いものでもう12月が目の前に来てしまいました。関西も寒い日が続くようになり、いよいよ冬が近くに来ているという感じです。北海道は既に大雪の模様でこれも困ったことですが、信州からもそろそろスキー場開きが聞こえて来そうです。先週は鳥取県米子市に行ってきました。日本人工臓器学会という学会があって、阪大の教室の後輩の鳥取大学医学部の西村元延教授が会長でした。丁度寒波が訪れていた時期ですが米子市では雪は降っていませんでした。大山は晴れ間に頂上辺りが見えましたが、雪を被った名峰の姿を少し見ることが出来ました。
写真は夕方の市内からの大山です。かろうじて見えています。

 
 
    さて、学会からの話題としては表題のリビングウイルとしました。人工臓器学会で何故、ということですが、この学会は人工腎臓や人工心臓、人工血管、人工肺など人の臓器や器官、組織を人工物で補おうと研究者や医師、企業が集まります。最近は、植込型補助人工心臓の臨床応用が進む中で、これを実施する施設が全国で40以上と増え、学会中にセミナーもありそこには心臓外科医だけでなく循環器内科医、そして看護師、ME技士の方々も沢山集まって来て、最近はこの学会も大変賑やかになっています。因みに、会長の西村教授は心臓外科医ですが阪大時代に心臓移植や補助人工心臓の研究・臨床に携わってこられました。阪大病院での心臓移植再開例で高知からのドナー心臓の入ったクーラーボックスを伊丹空港から病院までタクシーで運ぶ役割で、病院到着時に沢山のマスコミの写真ターゲットになっていました。

今回の学会の懇親会でサプライズがありました。西村教授が留学先のヒューストンで面倒を見た方(心臓移植を当地で受けられた二人)と阪大の移植患者さんで植込型補助人工心臓(当時は拍動型で大きなもの)で長期待機後に移植を無事受けられた患者さん、計3人が来られていました。私にとってはサプライズで皆さん移植後15年や20年以上になりますがお元気でした。西村教授と共に私も再会を喜んだ次第です。

さて、リビングウイルですが、何故これがこの学会で話題になっているかということです。植込型補助人工心臓の普及が我が国で急速に進むなか、心臓移植への繋ぎで保険適応となっているのですが、海外では移植には向かわない、これが最終の治療手段ですよ、という選択が増えています。永久使用、Destination Therapy (DT)と言われるものです。これを日本でも進めることとなり、既に治験が始まっています。心臓移植は末期的心不全への最終治療ですが、移植適応にならない方(例えば65歳以上の心筋症)にこの補助人工心臓で社会復帰や自宅での質の高い生活を送れるようにするものです。

DTの患者さんが補助中に例えば脳梗塞や脳出血を起こし、高度の脳機能の障害を来した場合、どういう終末期の医療を行うかが問題となるわけです。DTで補助人工心臓を装着するときに、終末期をどうするか、患者さんや家族とよく相談しておかないといけません。言い換えれば、人工心臓は動いているが体はもう反応しないか死に近い状況になっても、それでは人工心臓(生命維持装置)のスイッチ(電気駆動です)を切りますから宜しいですか、とは行かないのです。癌の末期でもう延命が出来ず衰弱するなかで、栄養や人工呼吸を、多分本人はこういう延命を望まないと思うから、中止出来るかということです。

これは尊厳死や安楽死、という話しです。この二つは全然違うことでうすが、日本では尊厳死を法的に認めてもらうよう尊厳死協会(12万人が会員)が以前から国に要望していて国家議員のなかでこれを実現しようというグループもありますが、未だ法整備は実現していません。宗教団体、弁護士、障害者の団体、そして日本医師会が強硬に反対してると言うことです。

学会中の一つのセッションは、終末期医療とリビングウイルをDTでどう扱うか、で議論がありました。尊厳死の法律がないので、終末期になっても人工心臓は基本的には止められない、と言うことですが、治療前に医療スタッフ(多職種が集まる)と患者さんと家族が集まって議論し、最終的に事前指示書なるものを揃えておきなさい、というのが法律関係者のアドバイスでした。そこに記載があれば倫理委員会等の了解は要りますが、終末期医療として(人工心臓のオフ)も不可能ではない、と言うことでした。でも家族関係のどなたが後で訴えたり、医療側が疑問を呈すれば、それこそ医師側は殺人罪で訴えられるという事態も当然予想されます。

終末期医療をどうするか、延命治療を中止出来るか、はなかなか悩ましい問題です。DTが最終治療であり、その先には緩和ケアや終末期医療が出てくるわけで、これにどう対応するか医療側も良く議論し準備しておかないといけないのです。ケースバイケースで最善を尽くすのですが、少なくとも植込み前に事前指示書(終末期になったときの対応)を取っておくことが大事ということでした。

さて、尊厳死法がない状況から見て思ったことは、日本では脳死が法律で認められているではないか、ということです。臓器移植の場合、脳死での臓器提供をするかどうかで生前の意思表示、即ちリビングウイル、が必要ですし有効です。ただ、今はそれがなければ家族が代諾することが出来ますが。勿論、臓器提供でない場合はリビングウイルがあろうとなかろうと、脳死は人の死ではなく、生命維持装置を切ることは出来ません。とはいえ、リビングウイルが一部でも法的に認められている、という認識を尊厳死議論の場ではどうなっているのか気になったわけです。臓器移植でのリビングウイルがすぐに終末期医療にも繋がるとは言えませんが、このことが何か突破口になるのでは、と思ったのでここに取り上げた次第です。それは関係ないよ、という声が聞こえて来そうですが、救急医療現場で二つの死が依然として存在している問題への対応と通じるところがあると思うからです。

心臓外科医が終末期医療にも関心を待たないといけない状況が増えています。普段の診療で高齢者も多くなっていますが、高度の先進医療が普及することで尊厳死の問題も身近になって来ています。これを支える倫理問題を扱う組織や人材が周囲に必要と感じています。

 

2016年11月10日木曜日

 臓器提供についての新聞記事から

  米国大統領選は大番狂わせでTrump氏が当選。米国のメディアの予想がこれほど外れた背景に、 一般の意見が充分くみ取れない米国のメディアの実態も浮かび上がってきた。それより、米国の国内情勢でかなり問題が鬱積していることも明らかになった。オバマ現大統領のキャッチフレーズChange!!が彼の在任中に不発に終わったのか、不完全燃焼であったのか、政治の難しさを露わにしているようだ。日本もこれを機会により主体性を持った政治を進める時期ではないか。因みに、我が国では首相は与党の総裁がなる仕組みであるが、この総裁の任期を自民党が延ばそうとしている。首相の任期は本来国民が決めることであるが、党の規約改正で決めてしまうという、なんとも井戸端政治的な話ではないか、と思っている。

 所で、今日(11月10日)の毎日新聞朝刊に久しぶりに臓器移植のまとまった記事があった。脳死での臓器提供が法改正後に増えたものの50例前後と低迷している。これを社会に知ってもらうことも大事であるが、なぜ低迷なのか、どうしたらいいかについては、救急医側の二人の意見に集約されてはいるが、論点整理と課題可決、という点では物足りない。これはものをはっきり言わない日本の新聞(記者)の宿命かもしれないが、FBに投稿したものをここに転載しておく。

 もう一つ、子供さんの渡航心臓移植への募金を募ったのが、実は子供さんは心臓病でも全くなく、親戚がお金に困ってうその記者会見と募金集めをしていた、いう記事がある。ある新聞はこれをしっかり検証せずに記事にしているという。渡航移植の莫大な額の募金については命を救うということが背景にあるが、海外へ臓器を貰いに行くという難しいまた悩ましい問題がある。これを安易に記事にする新聞社のスタンスはある意味で日本の臓器移植への社会の関心の裏の一面をさらけ出したようだ。


以下、FBでのコメントです。 記事は以下からお願いします。http://mainichi.jp/articles/20161110/ddm/016/040/019000c

「最近、脳死からの臓器移植への社会の関心が薄れているなかでこの記事は現状の脳死での臓器提供が法改正ご増えたとはいえ頭打ちの状況をきちんと紹介をしている。課題を現場の救急医側の意見を紹介しているが、新聞社としてのスタンスと具体的提案が読み取れないのは残念である。救急医が摘指しているように、問題は臓器提供以外は脳死の診断ができないことである。一般に救急現場では脳死は決して少なくないが、ここで臓器提供以外の場面でも脳死判定が出来、これに健康保険の点数を付けることで状況はかなり変わってくると、移植や救急医学の関係者の間で言われている。厚労省の規制緩和にこれを組み込むよう要望が出ているし、国会議員の中でも議論されている。ここまで踏み込んだ記事にして欲しいというのが感想である。」

2016年11月7日月曜日

那覇で学会がありました

11月に入って関西も急に冷え込んできましたが、そういうなかで暦は今日まさに立冬で言うこと無しです。北海道からはもう雪情報で、この夏の台風被害が収束されないままの冬突入で農家の方々の苦労が想像できます。
先週はまだ温かい沖縄に出かけました。でした。日本手術医学会が那覇(宜野湾)で行われ、役員をしている関係と南部のみですが久しぶりの沖縄もいいかと思って2泊3日で出かけてきました。私が阪大時代に会長をさせてもらったのが平成11年で、以来17年も経っています。当時は臓器移植における手術関連の話しが多かったのですが、最近はロボット手術や低侵襲手術、患者さんの高齢化、などがテーマになって来ているようです。学会の会長さんは琉球大学附属病院手術部教授の久田友治先生で、テーマは「手術医学・手術医療における私たちの役割;南の島で語り合おう」でした。ここでもチーム医療ですが、本土(こういう表現はいけなのでしょうが)とは歴史も風土も異なる沖縄で、ユニークな話も多いのではと、期待して行きました。報告と言うことでは二つあります。一つは学術的なことで、もう一つは余暇についてです。
始めの学術的なことですが、この学会は手術に関する諸問題を外科医、麻酔医、手術室看護師、臨床工学技士、などが集まって議論するもので、周術期管理、感染防御、機器管理、新技術などで、手術室におけるいろいろな課題が議論されます。私が参加したセッションは、東大病院からの周術期管理センターの話と救急医療分野として県立沖縄中部病院の現状、そして海外からの特別講演である医学教育の話でした。
周術期管理センターは大学病院や大規模中隔病院で関心が高まっている仕組みで、手術のための入院から手術までの流れをスムースにしながら手術の安全管理を目指し、医療者の連携を進めるものと理解されます。私自身の経験でも、手術前に麻酔科受診があって服薬状態や体調など手術の安全性に関するチェックと麻酔の説明を受けました。でも麻酔医が担当で、沢山の手術(いろんな麻酔が行われます)患者さんを引き受けるのは大変で、ここをシステム化しようというものです。まだこれからという印象ですが、私の見方では、全体(各診療科や手術部関係)をみながら動く専任コーディネーターが要るなあ、というところです。トップのコーディネーターに各診療科にサブのコーディネーターを置くことも必要でしょう。誰がするかでは看護師でもいいですが、やはり忙しいのでいっそのこと事務系での方を教育して育てればと思います。いずれにせよ病院がマンパワー不足のなかでどう対応するのか要注目です。
救急医療では県立中部病院のシステムの解説があり、素晴らしい活動でした。それを支えている医師チームですが、最初は初期研修医が見るが、後ないし同時に後期研修医や指導医が屋根瓦方式で対応しているのが特徴でした。マンパワーを分散させながら最適な医療を安全に進める方式です。大切なこととして言われたのが、沢山の近隣の島からの搬送では、それぞれの地区の医師に中部病院勤務経験者がいるということでした。不要な会話が要らず、迅速かつ的を付いた医療が出来ると言われていました。へき地医療や離島医療に生きがいを持つ多くの医師が育成され働いていることは実に素晴らしいことです。沖縄の救急医療の中核病院で医師の教育病院としても長年の歴史がある県立沖縄中部病院ならでの話でした。ちなみにこの病院で初期の修練を受けた沢山の医師がその後海外で研修し、国際的な医師となって我が国や海外で働いておられることも特徴でしょう。
医学教育の話は実は私が沖縄に出かけた一番の理由でした。それは、特別講演でハワイ大学外科教授の町淳二先生の「日本開国:医学教育と外科システムの国際標準化に向けての改善」を聞きたかったからです。抄録をみて、我が国でいま議論になっている新専門医制度に関する内容が盛り込まれていたからです。日本の専門医制度(卒後教育制度)の改革に関わってきたことと、課題についてすでに何度も書いています。新制度造りのステップで、国際標準化をキーワードにしないといけのでは、と理事会で提案したのですがほとんど無視された経緯がありました。そのほか、町教授が紹介された、トレーニングの内容と評価法の標準化(制度が異なってもある程度レベルや内容で横並びにすること)や6つのコアコンピテンシー(能力)を共通言語(目標)にしている米国の制度の紹介がありました。この仕組みは、その親の英国はもとより最近は東南アジアでも採用されている中で、日本はいまだに鎖国状態である、ということです。これに対して日本の関係者はどう考えているのか、というメッセージであり、米国の医学教育制度も国際版の骨格を作っているので、ハワイ大学などと連携して欲しい、という提案でした。
医学教育(学生)では我が国の各医学部も改善に努力されているとはいえ、まだまだ鎖国状態で、いい加減に開国したらというお話でした。例えて、黒船の代わりがTTP、ということでした。一方、卒後教育である専門医制度については、お役人や関係者に何度も呼ばれて米国の制度の良さを講演しても、いいですねという返事だけで今まで何も変わっていない、とも言われていました。講演の後で少し話をさせてもらい、私はこれまでの専門医制度改革で目指してきたことが間違いでなかったことも確信したのですが、それではでこれからどうするか、については私自身が専門医の新機構の中にいないこともあり何もできないので、町先生へのエールを送ることだけとなりました。気持ちが晴れないまま帰ってきたということですが、このブログでぼやいても仕方ないことです。
余暇についてですが、着いた日は那覇泊りで、午後3-4時間、そして翌日の学会初日の午前中をサイクリングで楽しみました。学会サボりました。那覇中心の南部をゆっくり回ろうと、那覇の自転車レンタル店にロードバイクを前もって予約し、ヘルメットとか服装などは持参するなど、どちらが主か疑わしい話です。天気も良く、気温は25度前後と風が強い以外は快適でした。初日は空港沿いから南へ下ってひめゆりの塔、平和記念公園へ行く往復コースで、20X2キロメーター、約3時間ののんびりライド。翌日は疲れもあり(前夜の懇親会で少々お酒も入ったせい?)学会も始まっているので近場ということで首里城周辺への往復でした。結構の坂でしたが高台からの景色は素晴らしく、やはり海と空がきれいな沖縄でした。自転車も楽しみ、学会での収穫もあり、そして怪我なく帰れてまずは良かったです。

補足です。:後期研修制度(専門医)への町教授の指導の下で米国方式を取り入れている病院があります。発足2年で60人の研修医 「米国式」取り入れた東京ベイの挑戦 -東京ベイ・浦安市川医療センターの記事を紹介します。私の勉強不足でした。
http://hpcase.jp/feature/tokyobay1/

 
以下写真です。