2017年3月23日木曜日

金沢市で日本循環器学会開催


 先週の週末は金沢市で日本循環器学会が開催され参加してきた。第81回という伝統ある学会で、循環器内科、心臓血管外科、放射線診断科、小児循環器、リハビリテーション医学、循環器看護、さらに成人先天性疾患も加えた我が国で心臓血管疾患の最大の学会である。会長は金沢大学循環器内科の山岸正和教授で、山岸教授は大阪(阪大、警察病院、国循)で長らく仕事をされ、仲間のような先生でもある。会場は金沢駅前のホテルと公会堂などで集約され、駅前地下広場は受付やクロークなどに当てられ、駅から直行で手続きが出来るという便利さも有り難かった。私は前日に東京で用事があり、朝一の新幹線、かがやきで金沢には9時前に到着し、聞きたかった心臓移植のセッションに間に合った。関東からは北陸新幹線開通で金沢は本当に近くなったのが実感できた。因みに、その前の週は役員をしている全関西学生スキー選手権大会が妙高高原であり、北陸新幹線、サンダーバードには何度もお世話になっている。
学会参加者は総数で13000人と発表されたが、実際はこれ以上の人が集まっている。金沢は新幹線も開通し駅前はホテルが集中しているが、学会参加で満員御礼、宿が取れなかった多くの人が近くの温泉から電車で金沢まで来ているという。地元新聞も大きく取り上げて、金沢及び近郊の経済効果は30億円という。これも新幹線効果か。
さて、3日間で沢山の会場似分けて多くの領域のセッションがあり、重点的に聞きに行き、発言もしてきたが、幾つか拾って紹介する。ただ、心臓血管外科のセッションは少なく201つ位かもっと少ないもので、外科医の参加者も年配者ばかりで若いのはあまり見られない。とはいえ、学会参加と共に教育セッションとか医療安全講習とか専門医の更新に必要なポイント確保が参加者にとって大事で、私もその一人。確かに専門医制度で学会が潤っている、という面も否定できない。
まず、先に述べた移植関係は、ガイドライン解説講演の1つで、「心臓移植に関する提言」、であった。この提言は今回公表されるもので、磯部光章教授心臓移植委員会委員長としての作成の意義と今後については聞きそびれたが、その後の臓器移植ネットワーク、適応判定委員会、補助人工心臓によるブリッジ、移植後管理、そして小児心臓移植と心肺同時移植では、それぞれの分野のリーダーが現状を述べた。私には提言としての位置づけははっきりせず、現状報告の感じであった。最後にフロアーから質問させてもらったが、心臓移植待機患者や移植後患者の登録データーベースがどう活用されているのか、これを科学的に分析して移植優先順位の改正をすべきではないかということであった。優先順位基準が国際的に見て旧態依然としている。待機中の無駄な死亡を減らすべく、ドナー不足ということで切り捨てるのではなく学会としてしっかり進めて欲しい、というお願いをした。磯部委員長からこれは大事なことで現在鋭意取り組み中である、と言うことであった。例えば、ステータス2という低い優先順位は現在ではまず移植に届かないが、2年後くらいから結構死亡される方が増えてくることもあり、改正の必要性が共同の認識であると思われたのは収穫であった。
その後、教育セッションを聞きに行ったことで、同時開催の「韓国と日本の合同セッションとして心不全の外科治療」は聞けなかった、プログラムでは、韓国2カ所の代表的施設からこれまでの一施設で600例といった大きな心臓移植の成績の発表があり、我が国からは澤教授が日本の話しをされた。韓国が年間心臓移植を日本の4倍の数を行っていること、我が国で20年を要した数が韓国では2年程度でこなしているということを我が国のマスメデイアは伝えてない。さて、教育セッションは心臓リハビリと血管疾患の血管内治療、であった。心臓リハは心不全や心筋梗塞後の管理では非常に重要な分野で、私自身も兵庫医療大学でリハビリ分野の方々と交流が始まり、自身の病院でも盛んに行われていて関心が高い分野である。テーマは、運動療法の主体は有酸素持久運動か筋力トレーニングか、であった。それぞれ心臓リハビリで有効性が示されているが、筋トレと言ってもアスレティックジムでボデイービルをするようなものではなく、レジスタンス負荷といって一定の負荷に対して筋力を回復させるものである。長期臥床で下肢筋力が落ちて歩けなくなった場合などにベッド上でも行われ、これは下肢だけでなく心臓にも効果があり、2つはそれぞれ役割分担があることも分かった。血管外科について省略する。
次いで紹介するのは、埋込型補助人工心臓(VAD)関連したものである。この領域は複数のセッションがあり、外科系や移植関連学会ではよく見られるが、循環器学会、内科系学会)、では異例のことで、時代が変わったという感じである。中でもVADの永久使用Destination TherapyDT) についてはホットな議論あった。推進派というべき移植医や心臓外科医がその必要性と治験の妥当性を述べたが、東京医科歯科大学の磯部教授が問題発言があった。教授はDTについて、私はDTを終末期医療と考えているので良く準備して勧めるべきであるという慎重論であった。このDT=終末期医療には他の演者から異論が出た。確かに最終的には終末期医療ではあるが、基本は前向きの医療であって、誤解を招くということであった。私としては、DTありきで進んでいる現状への警鐘として一部納得できることであった。現在、DTの治験が進んでいるが、それが終了した後の種々の議論の前倒し的でもあった。
もう一つDTについてはその後に研究会があった。その中で感心した発表は、東北大学の看護師さん(移植コーデイネーター)のものであった。現在心臓移植適応年齢が60歳から65歳に引き上げられているが、DTはこの年齢を超える患者さんが当面対象になると予想される。しかし、65歳以上の移植適応となるような患者さんの実態調査が全くなされていない現実がある。そこを考慮して、東北大学ではVADを移植ブリッジとして60歳以上(65歳未満)4症例に植込みを行っている。報告はその詳細であったが、年齢が高いことで体力の低下や長期心不全治療で抵抗力も低下し、管理に難渋することもあるという内容で、発表者はしっかり現実を見極めて、何が問題かを提示していたので素晴らしい発表であった。こういうことをしっかり議論しないでDTありきで進めるのはどうかと思う私の持論と共鳴するものであった。

長くなったので、第一弾はこれ位にします。





2017年3月7日火曜日

補助人工心臓とレギュラトリ―サイエンス、


 

 早くも3月に入ってしまいました。記事の更新も滞っていて、月2回の目標も崩れてきています。ここで気合を入れないとズルズルと後退して行きそうですが、そろそろ学会とか研究会も増えて来るので回復を目指します。

2月は日本心臓血管外科学会という我々の領域では最も大きなものが2月末に東京であったのですが、その最後の日に別のシンポジウムがあったので紹介します。

レギュラトリ―サイエンスに関するもので、早稲田大学の医療レギュラトリ―サイエンス研究所主催の「補助人工心臓の研究開発から学ぶ」、というものです。早稲田大学には医学部がないのですが、その代わりではないですが東京女子医科大学と連携して連携研究体制を作っています。新宿区河田町の女子医大キャンパスの一角にTWInsという両大学の合流した新しいユニークな研究所が出来ていて、その中には人工心臓の開発研究では日本を引っ張ってきた梅津光生教授がおられ、今は早稲田大学総合機械工学教授でこのレギュラトリ―サイエンス研究所の所長をされています。また、循環器内科分野でのレギュラトリ―サイエンスではやはりリーダーの笠貫宏先生が特任教授として参画されています。

さて、本題ですがレギュラトリ―サイエンス以下RSとしますが、これは医薬品や医療機器の国(行政)による許認可において、規制だけではなく如何に国民の福祉に貢献できるシステムを作るか、即ち規制を規制に止めずサイエンスでもって支援していく科学です。 これまでデバイスラグやドラッグラグが問題になっていましたが、ただ規制が悪い、迅速な承認、というだけでなく、そこにRSの概念や手法を取り入れることで、我が国の医療機器や薬品開発促進しよう、というものです。また国際標準に合うべく審査や承認の仕組みを変えていこう、という動きでもあります。医療費との関連、費用対効果、の話でもあります。沢山の活動や学会、研究組織もありますが、此の早稲田の研究所(MeRS)はユニークな存在です。

今回のテーマは、補助人工心臓関係なので、主催者側でもなく演者でもないのですが、旧知の梅津先生や補助人工心臓のデバイスラグでともに闘って来た順天堂大学の佐瀬一洋教授にも久しぶりに会いたくなって、急遽の参加でした。前置きが長くなるのは悪い癖ですが、要点を紹介します。なお、この分野では究極のターゲット?となるPMDA(医薬品医療機器総合機構、FDA日本版)の近藤達也理事長のお話は間に合わず聞けませんでした。

演者は心臓外科の仲間の話は省略し、行政やRSのアカデミアの話が面白かったので紹介します。行政からは現在PMDAにおられ、これまで長く厚労省におられた俵木登美子氏と、PMDAで補助人工心臓のレジストリー(J-Macs)を立ち上げてこられた石井健介氏が登場。これまでの私共の学会と連携して進めてきた補助人工心臓の認可におけるデバイスラグ解消やレジストリー構築までのステップの紹介があり、懐かし話や最近の展開も楽しく聞かせてもらいました。医療機器の開発支援や審査承認制度については人工心臓がいつも成功組として紹介されますが、このステップも考えてみれば10数年に及んでいる訳で、こんなに懸ったのか、これでいいのか、という感想もあります。

では、現状での課題は何かですが、話題はもっぱらレジストリーの在り方、活用の仕方でした。RSはまさにこの登録制度(レジストリー)で得られたデーターベを如何に活用するか、そして新たな仕組みをどう作って行くかが問われている、ということです。非臨床試験(基礎や動物実験)での評価法、レジストリーネットワーク、リスク・ベネフィット評価、というテーマでの議論でした。私も議論に参加させてもらい、心臓移植を例に出しての話ですが、我が国の臓器移植のデーターベース(レジストリー)では移植登録は日本臓器移植ネットワーク、適応判定は日本循環器学会、それぞれが管轄しているのですが、そのレジストリーデーターの活用が全くと言っていいほどなされていないのです。因みに米国のUNOSからは学術的な報告(解析)がどんどん出てきて、これが規制というかドナー選択システムを変えて行っているのです。我が国では全くなされていません。不作為と言っていいでしょう(自分にも責任がありますが)。元に戻って、医療機器や薬品では米国はFDAが仕切っている訳ですが、FDAからのデーターの分析やRS関係の論文がNew England Journal of Medicineという超一流雑誌にいくつも出るようになって来ているということです。世界が違うのです。10数年前に佐瀬先生たちとFDAを訪問し、Harmonization by doing (HBD)という切り口というか合言葉で規制改革を進め始めたのですが、このHBDの進捗はまだ道遠しです。

最近はビッグデーター、ということが良く言われますが、診療報酬制度のデーターは医療の正に根幹ですが、その他の多くの臨床データーを実臨床エビデンス(Real World Evidence)に繋げる科学(integrate,統合、する)もこれから必要という、これを実践している研究者、大津洋博士のお話も素晴らしかったです。佐瀬先生は医療戦略の本質はValue-based Medicineであるという米国クリーブランドクリニックの紹介も新鮮でした。これは先の記事で紹介した藤田浩之氏の講演にも関連するものではと思いました。

まとめですが、医療機器でいいますと補助人工心臓や新たなデバイスがツナミのように我が国に押し寄せていますが、国内企業や研究者を守りながら、そしてHBDの趣旨で非関税障壁を取り払いグローバルな視点で新たな医療機器を迅速に導入することが求められている。そしてそこにはRSに基づいた仕組み作りが大事であるということでした。規制改革やデバイスラグを叫ぶだけでなく、科学する姿勢で対応することが今後さらに求められ、そこにはデーターベースからのエビデンスを基盤にするという文化を根付かせる必要がある、ということでしょうか。しかし、これを進める上でのレジストリー事業には大変なお金と人が必要である、という現実が大きな障壁として残っていることも改めて認識したシンポジウムでした。

2017年2月16日木曜日

神戸で医療機器開発フォーラム;藤田浩之QED 社長の講演


先日、神戸はポートアイランドにある神戸商工会議所で医療機器開発に関する集まりがあった。大阪商工会議所が企画した、次世代医療システム産業化フォーラムというもので、第7回目の例会ということであった。大阪商工会議所は医療機器開発支援では先陣を切っていて、私も阪大時代にお世話になった。今は医療機器開発と産業化では京阪神連合の動きもあり、今回は神戸での開催となった。神戸で医療機器事業化促進プラットフォームなるものを担当していることもあり、参加してきた。阪大時代の仲間の阪大基礎工学研究科の三宅淳教授がモデレーターで来られていて久しぶりの再会であった。

さて、ここで取り上げたいのは特別講演のことである。招請講演者は藤田浩之氏で、日本人でありながら米国オハイオ州クリーブランドで医療機器産業分野で2006年に起業に成功し、オバマ前米国大統領の年頭教書の講演に際しては演台に上がる招待メンバーになったり、そのユニークな経歴と人物像で著明な方である。QED( Quality Electrodynamics)というMRI関連機器の開発で注目されている企業のCEOであるである。日本の大学を中退し米国に渡りクリーブランドのCase Western Reserve Universityで物理学博士号を取られて後、米国に留まって企業家として成功している。講演の演題は、「QEDのこれからの戦略、横のパートナーシップの構築」、であった。

藤田博士は物理学の研究者であるとともに医療機器関連でもの造りを進めていることから今回の招請となった。私はこれまで藤田博士のことは存じあげなかったが、講演は大変面白くブレーンストーミング的であった。MRI(核磁気共鳴)装置は今や体の多くの部位や臓器での機能診断と病的異常の検出で大きな発展を遂げているが、このQEDという会社は大きなMRIの装置の中に小児用や頭用、膝などの関節の診断用といった補助装置(マルチチャンネルRFコイルという)を作り出していて、世界のこの分野での高いシェアーを持っている。この会社は製品の8割を米国外に輸出していることからオバマ政権やオハイオ州で注目され、時の人的である。物理学者としてのバックに、GE(General Electronics)でのMRI機器開発で大きな仕事をされた後、自分で研究から製品製造、そして酷さ展開させる会社を立ち上げておられる。

オハイオ州クリーブランドは医療産業のメッカと言われ、中核にはCleveland Clinic (5万人の従業員) があってここは超有名と言っていい存在である。大学医学部や附属病院といった所ではない、プライベート病院でありながら、世界から患者さんが集まり、幅広い分野で医学・医療をリードしているが、博士はそこの理事にもなっておられる。心臓外科医で弁輪形成用リングを開発したコスグローブ博士がもうかなり以前からCEOを務めている。

さて、話を先に進めると、講演の後の質問で面白い答えがあったので、そのことを書かせてもらう。
日本の医療機器開発は国際的に見て依然として(あるいは更に)遅れていて、循環器系では輸入品ばかりで甘んじている。この状況を藤田CEOはどう思うか、とアドバイスを求めた。答えは、日本では医療はお医者さんが仕切っていて、それも日本では医師の世界はピラミッド方式で、かつそこは東大理3乗っかっている、という状況が問題ではないですか、という趣旨の回答であった。私も東大理3ではないけど大学人として、教授であった身として、そうですね、責任は我々にあるのですね、と言わされてしまった。痛いところを突かれたが、理3という言葉はこのような場で出て来る言葉ではなかったので驚いた。

藤田博士の紹介として、自身が書かれた本があるので読んで欲しいということであった。「道なき道を行け」で早速ネットで購入した。宣伝帯には、「オバマ大統領から米・生産業の未来を託された男」、とある。稲盛和夫氏の推薦文では、「彼の歩く道に、日本のそして世界の希望を見る」、とある。宣伝文では読む前から興奮するような本であるが、これは誇張ではなく本当にそうなのだ、ということが読んですぐわかった。

一気に読んでしまったが、詳細は省くとして、博士がなぜ理3に拘ったか、日本の医学部の教授をトップとするピラミッド体制がなぜ悪いかも、日本の医療機器の規制改革はダブルスタンダードで世界から取り残されていて改善どころか悪くなっている。世界から見て変な国で、言葉(英語)と規制でも孤立している、というメッセージが読み取れる。ご本人は高校生の時に外交官を目指したが、「理系では日本では外交官にはなれない」ということで物理学、そして医療に入っていった経緯も面白い。前例がない、道がないなら作ればいい、という信念でここまで来られた。本の中の面白いフレーズや話として紹介したいのは、大学理系出身では外交官にはなれない、手を付けていない仕事を残し休むことに対する罪悪感(仕事を先延ばしにしない)、米国と日本の大学教育の大きな違い(自由度)、8割を切れ(要点をとことん絞れ)、行政の規制では掛け声と実体の違うダブルスタンダード、人世を歩むときは、ドーナツの穴を見るのではなくドーナツを見ろ、多様性だ(日本にかけている)、常に100%を、など等である。まさに道を作るにはこういう信念と情熱、そして支える考え、がないとここまで来られなかった、と書かれている。まさに超人的な仕事ぶりである。と言っても単なるワーカホリックではなく、奥深い信念と目標がある。仕事前にジムで汗を流す余裕もある。

頭脳の海外流出、といった簡単な話ではなく、博士のメッセージ、特に今の時点での熱いもの、を我が国の関係者はしっかり受け止めないといけないのではないか。医療機器開発では我が国は後進国と言ってもいい、と思われている。博士も書いているが、日本では多くの医学関係や行政の人が、講演の後、それは良く分かっているがといって変えるのが難しい、で終わっている。安部政権は医療分野のアウトバーンを掲げているが、その施策は藤田博士からみて何点が付くのか興味がある。

ということで、藤田博士のこの本の的確な紹介には程遠いが、雰囲気は分かっていただけたかもしれない。そして、若い大学生、医学生には是非読んで欲しい本である。東大理3に拘っていては東大医学部出身の先生方に申し訳ないが、藤田博士は、医学界の課題的なことを表現する上で代表としてこういう引用をされたのでしょう。こ本を読めば背景が分かってくが、ここではネタばれになるので書かないでおく。デバイスラグで象徴される我が国の医療機器行政は世界から孤立していて、世界からも見放されている、もう期待されていない、というのが米国から見た日本の状況のように読み取れる。

以上、個人的な感想や考えを入混ぜてしまったので、博士がこれを読むと、君は分かっていない、と言われそうである。とに角、凄い方である。外交官や医師にならないで正解だったのでは、と言ったら失礼かもしれないが、物理学研究を基礎に産業界で国際的活躍されている姿は素晴らしい。本の中に、自分は外交官にはなれなかった、という言葉に奥様が、今あなたは外交官の仕事をしている、と言われたとある。


講演のハンドアウトの1枚目にロードバイク姿の写真があったが、今度お会いしたら自転車に乗る時間があるのか聞きたいところでもある。そして、MRIを見たら藤田博士を思い出せ、ということで締めくくらせてもらう。


2017年1月29日日曜日

臓器移植ネットワーク


日本臓器移植ネットワーク(以下、ネットワーク)がまた移植患者の選定ミス、というニュースが飛び込んできた。27日の記者会見で、直近での心臓移植提供で心臓移植レシピエントとして選定された1番と2番が共に大阪大学付属病院の患者さんであり、連絡を受けた阪大側が1番と2番の順番が逆ではないか、ということで事態が発覚したようだ。調べてみるとこれまでに二人の待機患者さんが本来受ける順番であったのに順位が下位になっていて、受ける機会がなく既に1000日以上の待機になっているという。
そもそも2014年に同様の選定ミスが連続し、厚労大臣から改善命令である指示書が出て、執行部の交代と選定ソフトの見直しが行われたばかりである。この患者選択(臓器配分、臓器斡旋)は脳死臓器移植での臓器配分を公平公正に行う根幹にかかわる所で、間違った選定の陰で本来受けるチャンスを失う、そしてそのために待機期間延長ではなく移植に至らず亡くなることもあり、あってはならないことである。ネットワークの実情から見れば同情したい所も沢山あるが、あえて論点整理を試みてみたい。
では、選定ソフトの新規導入から2年弱で何故こうなったのか。何故これまでミスが分からずに来たのか。その仕組みを理解しなければならないが、あるドナーからの脳死での臓器移植が可能となった時、まずレシピエント(移植を受ける方)を基準に則り順位の高い方から選び、3番くらいまでについて各移植施設へ連絡し、移植を受ける意思があるかを確認することから始まる。これはその病院で登録している患者さんだけについての連絡であり、他の病院で登録している患者さんの情報は計り知れないことである。少なくとも今回のように1番と2番の両方が同じ施設であると間違いが分かるが、その施設の患者さん一人が何番目かの候補と連絡があっても、その施設での順番が正しければ、他施設のそれ以外の順番のことは全く分からないし、知らせてもいけない。要は、何か不審な点があっても施設間で確認しあうことは出来ない。順位が2番目の方がおられても1番が他施設であればそれを信じるしかない仕組みである。
原因にはコンピューターのソフトの不具合と担当者の情報登録時の人為ミスの二通りがあるが、何れにせよコンピューターに登録後の確認を各登録施設とネットワークとの間での確認する仕組みがない、即ち二重チェック体制が取られていなかったのではないか。実はもうとっくに時効ではあるが、心臓移植再開のころにも同じようなことがあった。手計算をコンピューターに変えたから安心ということは決してないことを改めて知るべきである。ネット―ワークの皆様が日々頑張っておられ、ここまで成果を上げつつあるなかで、こういったことでネットワークやそれを支えるコーデイネーターの評価が下がるようなことに無いように願いたい。
前回のネットワーク問題の時にも書かせてもらったが、日本臓器移植ネットワークはもうそろそろ二つの役割を明確に切り分ける時期ではないか。一つは今回出た患者選定作業、法で決められた臓器斡旋(配分)事業であり、もう一つは啓発・教育・学術などの活動である。前者は国の予算も付くもので、徹底した質の管理と公平公正な臓器配分であり、脳死判定や個人や家族の意思表示の確認等の役割がある。現在もネットワークとしてはこの仕事が殆どであろうし、改めて斡旋業務の円滑かつミスのないシステムの構築を徹底して欲しい。一方、救急病院等の臓器提供の現場での移植コーデイネーターの充実とこの斡旋業務とは車の両輪であり、ネットワーク事業の根幹である。
しかし、もう一つの役割、啓発・学術活動、も大変大事なことは言うまでもない。今回も関連するソフトウエア―であるが、究極はデーターベースにも繋がる。膨大な登録患者と提供者、提供臓器、そして成績などはデーターベースの管理という点でも大事であるが、学術的にも大変重要であることが日本ではあまり認識されていない。米国ではUNOSという歴史ある国が支援している大きな臓器移植の元締め組織があるが、そのデーターを学術的に使用して移植医療の発展に大変貢献している。移植関係の学術誌にはUNOSのデーターを分析して、待機中の死亡の原因や待機リスト判定が適切であるか、時代に合っているか、等の重要な報告が出ている。最近も、臓器配分と患者選択指針(ポリシー)の見直しがあった。法改正ではなくポリシーの改変で新たな展開が始まる。一方日本では、ネットワークは概要(臓器提供数と移植数がメイン)を公表しているが学術的なことはどうか。外部からの研究用資料提供の申請があれば許可されるが、研究者側はデーターの取得ではかなり制限がある。臓器提供者と待機患者、移植患者の個人情報が絡むからである。
今の日本のネットワークは予算と人材から見て誠に貧弱である。斡旋業務に振り回されているのか、学術や啓発にはとても十分な力を出せていない。また、米国はUNOSが臓器提供や移植の現場でのネットワーク(OPTNOrgan Procurement and Transplant Network)と緊密に連携されていて, 上述したように臓器提供や移植の仕組みの改善や新たな展開を積極的に支えている。日本では、ネットワークの下部組織的な地域支部があるが、啓発活動が主のようである。そして移植や臓器提供、配分の種々の基準の見直し、予算配分などは厚労省管轄であり、その中の専門委員会で決められる。ネットワークはその実施機関に位置している。米国のOPTN/UNOS体制とはかなり異なっている。脳死臓器移植はこれまで長い議論があり、法律制定でも紆余曲折があったように、法で厳格に管轄されていることから、ネットワークには主体性もなく、予算も限られている。そういう意味では、日本の臓器移植の成熟はまだまだ道遠し、の感である。
我が国として求められる臓器提供数の確保と質の担保、社会からの信頼獲得、などのゴールを目指してネットワークや関係者は更なる努力が要るが、今回のことを踏み台にして更なる展開をして欲しい。選定ミスの後始末で終わらせてはいけない。
 

2017年1月24日火曜日

論点整理とは


 論点整理という言葉が新聞紙上やニュースで盛んに出てきています。天皇陛下の譲位に関する「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」が先日これまでの議論を纏めて公表していますが、その纏めが、論点整理、となっています。新聞の第一面にこの言葉が出て来ること自体非常に珍しいのですが、このブログも副題が「論点整理から課題解決」としていることから、この論点整理について少し書いてみようと思い立った次第です。

このブログで使っている意味は、種々の課題がある中でこれを解決しようとするときは、まず何が問題か、その背景はどうなっているのか、どういう解決策が考えられるか、等を分析しないと先に進めないからです。しかし、この論点整理が我々の周囲で充分出来ていないことが多いのです。この分析をしっかり行わないと、解決出来ず、間違った方向に行ってしまう危険がある訳です。この論点整理を習慣にすることが必要と思います。論点整理に少し拘っているのですが、論文を書く時もこれが当然必要で、医療の場でもこれを普段から使うことを習慣づけることが大事と思ってあえてこの副題としています。

さて、今度の天皇陛下の譲位では、論点整理が出て一応有識者会議の仕事は終わるようです。勿論、この後はお役人が進めるのではなく、国民の意見を聞いたり、国会で議論したりするので、正に論点整理、です。それ以上でもそれ以下でもないということです。一方、行政機関の各種委員会で新たな問題に対応するときに、議論がある程度出た段階で、それでは論点整理に移ります、ということになります。そして出て来たものは、確かに意見が併記され、種々の課題が羅列されているのですが、どうも何か方向性が見え隠れする訳です。後はどうなるのか、ということですが、お役所はその時点でもう後の筋書きを作っていることが多く、後はそれにそって粛々とことが進んで行きます。

 今回の論点整理は私ごときがコメントするのはおこがましい限りですが、有識者会議の委員長も自負しておられるように、実によくできた、素晴らしいものです。まさに論点整理で、考えられる論点が網羅され、抜けもなく余分もないものです。方向性も結論も書かれていません。官邸や政府の意向が出てくるようでは大変なことになるのですが、マスコミや野党はその思惑が背景にあるのでは、と追及しています。それにはそれなりの理由があるのではと思います。というのは、これまでの国の決め方では論点整理と言いながら結論ありきのことが多いからではないでしょうか。

私が加わった委員会でも論点整理を進める段階で、後ろにいるお役人の意向が何となく出てきていて、最後は何のための議論であったのかと思うほどお役人好みの結論が出て来る訳です。議長かどうかは別として、そこに所謂、御用学者と言われる方の存在があるように思ったりします。先にシナリオがあり、結論ありきのなかで、手順上いろいろな意見を聞いたことにしておいて、あらかじめ決めていた方へ向かう、ということがないとは言えないと思います。貴重な時間とお金が無駄に使われていないか、疑わしくなります。
 
医療現場ですが、論点整理だけではまだ道半ばです。課題解決へのステップなので、行政(お役所)と医療現場(患者さん相手)では論点整理の意味が違うということかもしれません。皆様の場合の論点整理はどちらでしょうか。課題解決に力を置くか(医療、科学)、考え方(プロセス)に重きを置くか(行政など)、の違いかもしれません。

こんな次元の低い話を天皇陛下の譲位の論点整理にぶつけること自体、不謹慎かもしれませんが、論点整理という言葉の使い方についての、論点整理(課題解決なし)になったのか疑わしいです。

2017年1月16日月曜日

成人先天性心疾患学会

 成人先天性心疾患(adult congenital heart disease, ACHD)については何度かこれまでにも紹介した。成人で先天性とは、と何かおかしな名前であるが、この領域は歴史的に見て小児の先天性心臓病(生まれつきの心臓の異常で、沢山の病気がある)の外科治療から始まっているので、小児心臓血管外科、小児循環器の専門医が集まって研究が始まった。そして今では手術を終えた多くの患者さんが成人期に達するようになり、その方々は種々の問題、遺残病変や合併症、中でも慢性心不全を呈するようになることから、その分野に特化した多職種の専門分野の連携の必要性が問われてきた。英国ではGUCH (grown-up congenital heart、成長した先天性心疾患)として診療体制や研究、統計疫学、が進んでいる。名前が有名なブランド品に似ているが、英国人らしいユーモアを感じる。米国でも専門医や専門看護師も出来てきている専門分野であって、我が国でもこの分野の学会が始まってもう20年近くなる。今回第19回の学会が三重県は津市で、三重大学産婦人科教室の池田智明教授が会長で行われた。何故産婦人科の教授が、ということは後で説明するとして、幾つかのトピックスを紹介したい。
この学会はいつもこの時期に行われるのが習わしであるが、今回は日本中が大寒波襲来で冷え切っていて津市内も雪が舞うなか、学会会場は駅前のホテルで、300人位(不確か?)の参加でホットな雰囲気で行われた。そもそも学会会員は800人程度で、医師(循環器、小児循環器、心臓外科、産科、放射線科、麻酔科など)に加えて、看護師、検査技師、心理士の方々も参加している。学会の前日には三重大学医学部のこの分野の関連の先生の講演があったが、川崎病の最近の動向、心臓外科の進歩、放射線科での診断法の進歩、などであった。川崎病は先天性心疾患ではないが、冠動脈に異状が生じる病気で、日本で流行的に発症し、その特な病態から新たな疾患として認められ、発見者の川崎博士の名前が付けられた。かってこの病気が世界で注目され、川崎病として広まったころに、神奈川県の川崎市のどういう方かは忘れたが、名前を変えくれというクレームがあったと聞いているが、今はそういう話は昔話になっている。とはいえ、この病気歯まだ発生数は減少しておらず、また原因はすぐにわかるような雰囲気であったが、今回専門の方に聞くと、まだ全くと言ってもいい程原因は分かっていないとのことで、病気の原因を突き解けることの難しさを改めて感じた。因みに、初期治療の方針が固まっていて、冠動脈バイパスや心筋梗塞になる頻度歯減っているということであった。
さて、肝心の成人先天性心疾患では、学会会長や英国の招請講演者も産科の先生で、手術後や心臓病を持ったままで妊娠出産となる患者さんが少なくなく、母子の安全や健康管理での英国での進んだシステムが紹介された。この分野もそうであるが、心不全管理や再手術、ひいては心臓移植などの全体像を見れる診療体制の必要性、基幹病院への集約が必要ということであった。我が国でも問われることである画、専門分野の他職種連携と集約が大事であるが、我が国ではこれがなかなか進まない課題でもある。招請講演者のPhilipp Steer教授は英国での傾向として若い人が簡単に妊娠する傾向があり、心臓病を持った若い女性への啓発活動や心臓病のスクリーニングが必要とのことであった。出産前に胎児の発育遅延が見つかり、その原因が先天性の心臓病が隠れていることもあるという話しであった。
もうお一人英国のこの分野の専門であるMichel Gatzoulis博士の講演では心不全の話があり、大変興味深かった。先天性心疾患術後はすでに慢性心不全の患者群に入り、特別な注意でもって対応が要ること、再手術やカテーテル治療、デバイス治療が紹介された。私は討論時に、心臓移植についての我が国へのアドバイスや、移植に至らないような治療体系もことを質問させてもらった。難しい話であるが、これも集約したセンターで対応すべきであり、また補助人工心臓の応用もこれからの課題で、期待されているとのことであった。
最後に我が国の演者のシンポジウムで、フォンターン手術の再手術の話があった。このテーマであるフォンターン手術は私のライフワークでもあり、興味があり、議論にも参加させてもらった。特に術後の肝障害についてはまだまだ問題解決には程遠く、肝硬変になるリスクの解析や心臓移植以外の対応など、今後の課題として残されていた。 私はもう手術にお参加はできないが、術後患者さんのフォローの中で、何か貢献できればという思いを深くした。

学会中から予想通り雪が降り出し、津市内も白くなってしまい帰りの交通が心配されたが、近鉄は特に遅れもなくなっていてトラブルなく帰ることが出来た。以上、津の学会の報告でした。

                   ホテルから津市内の写真。伊勢街道が見えています。






2017年1月3日火曜日

明けましておめでとうございます。

 新年、明けましておめでとうございます。皆様、良いお正月をお迎えのことと思います。この3が日、関西も大変穏やかな日和で、正にお正月、といった感じでした。とはいえ初詣に行くわけでもなく、年賀状と箱根駅伝を楽しむくらいでしたが、新年のスタートをのんびり過ごせたので後は少し気合を入れないといけないかなと思っています。明日から仕事初めですが、病院にいることが自分の生活の一部というか土台でもありましたので、状況は変わってもやはりそこでどう生き生きと過ごせるか継続した課題でしょう。というのは、大学時代は毎年の目標があるというか立てないと話にならなかった訳ですが、今の状況ではそういう環境ではなく、如何に世の中や周りの皆さんとうまくやっていけるか、あるいは取り残されないか、迷惑をかけないか、そんな気持ちでの仕事始めではないかと思います。
どうも年末以来、気合の入れ方が鈍っているようですが、それは受け入れないといけないし、その前提でこれからどう進むかを考えることが大事かなと思います。人間、何かはっきりとした具体的な目標が立てられる時は良いですが、何となく惰性になった時にどう乗り切るか、そこが大事なのかというのが、あえて言えば新年に当たっての気持ちかもしれません。
さて、この1カ月程は少し紹介したレビュー論文作成が日々の仕事でした。成人先天性心疾患という領域の話ですが、子供さんの時に生まれ付きの心臓病の大きな手術をして元気になった方やまだ不十分で何とか大人になった方などが、大人になって不整脈や心不全が起こってくる方が少なくなくありません。小児循環器医や大人の循環器医、そして心臓外科医、不整脈治療専門医などの連携で治療体系作りが進んでいます。私が子供さんの時に手術をさせてもらった方がもう大人になっている訳で、ほとんどの方は特に治療は必要としないで経過観察していますが、再手術の時期になったり、患者さんによっては心臓移植を考えないといけないような重篤な問題が生じている方もおられます。
このテーマでは以前にも書いていますが。米国や欧州では成人先天性心疾患の治療体系も進んでいて、さらに心臓移植の実績も増え、今はどういう状況で移植の判断をするのかが懸案事項になっています。ドナー不足とはいえ、米国と欧州の心臓移植の統計では毎年100例以上の成人の方が移植を受けています。残念ながら日本ではこれまで300例以上の心臓移植のなかでこのカテゴリーに入るのは1例のみです。待機中の方は数人おられると思いますが、心筋症の方と違った病態や症状であり、同じ土俵で待機することには問題がある、というか不公平感があることから、米国では心臓移植の優先順位の改定も検討されています。しかし我が国ではまだ全くと言ってもいい位検討も始まってもいません。日本で成人先天性心疾患の心臓移植は何も見えないと言っていいくらいの状況です。そういう選択肢があることが世に言えない状況でもあります。手術をした後のフォローがそれではいけないのです。
ということで、成人先天性心疾患における心臓移植の役割と現状、将来展望、という題で総説を書いています。英文なので四苦八苦していますが、関連する論部(海外だけです)70以上になり、これをどうまとめるか、日本の関係学会の雑誌に採用されるようどうすればいいか、など思案中です。とは言え、今日でドラフトはほぼ出来上がったので、あとは枝を削いで、読んできただける内容に纏めていくことになります。英文の校正もいりますが、今月中の投稿できればいいなと思っています。ということで、今年の出だしも何とか前向きになったかと思います。年末の気分とはずいぶん違っていて、やはり新年だ、という所でしょうか。
このブログ、今年も何とか続けたいと思っていますので、陰ながらのご支援をお願いします。頑張ります