2013年7月26日金曜日

暑中お見舞い申し上げます

  早いものでもう7月も下旬、夏休みの時期に入っています。連日の猛暑、熱中症で倒れる人も多いようです。皆さん気を付けましょう。昨日は三宮でJRの改札からモノレールに向かう途中で男の方が横を向いて倒れていて、駅員一人と若い女性がそばにいたので様子を聞くと、意識はあって救急車を呼んでいるとのこと。深刻な状態ではなさそうなので駅員に任せてモノレールへ。後で、救急車が来るまで留まるべきであったかと自問。
     昨日は午後に神戸市の方々と医療機器プラットフォームの打ち合わせ。先日のキックオフセミナー以降、幾つかの問い合わせや依頼があったようで、閑古鳥が鳴いてなくて一安心でした。8月始めには東京でもセミナーをするのでその打ち合わせも。東京では、日本医工ものつくりコモンズ、という社団法人で医学と工学が連携した機器開発支援する組織が既に活動をしています。我々もそこに入って全国的に活動を進めるのですが、慶応義塾大学医学部や早稲田大学工学部の昔からの仲間がリードしているユニークな団体です。代表は盟友の北島政樹国際医療福祉大学長(慶応義塾大名誉教授)、消化器外科の重鎮、ですから期待度は高まっています。医療機器開発は臨床医の現場からのアイデアを技術系が対応してものにするのが基本で、私もアイデアを出す方で頑張りたいと思っています。まさに自分の医師としての原点、すべてはベッドサイド、に戻らないといけない話でもありますが、丁度4月から臨床に大分復帰していますので、タイミングとしては申し分ないと思っています。
   少し旧聞になりますが、先週の学会めぐりの一つが仙台での日本リハビリテーション学会でした。兵庫医療大学でリハビリの学生教育にも関わりましたが、そのなかで心臓リハビリは個人的にも興味深いものでした。臨床に戻りながらこの分野の勉強も、と思ってその学会に入会し、仙台まで行ってきました。学会は半日程度しか参加で来ませんでしたが、丁度、補助人工心臓や心臓移植における心臓リハビリのセッションがあり、そこでコメントもさせてもらい学会デビューとなりました。特に植込み型補助心臓は使える施設が増えてきて、興味が高まっているようで嬉しかったです。
    心リハ学会に行ったもう一つの理由は、兵庫医療大学理学療法学科におられた高橋哲也教授(現在は東京工科大教授)との再会でもありました。高橋教授は内部障害の理学療法で日本を代表する方で、惜しまれて東京に戻っています。いろいろ話をと思っていたら、今回の学会で「木村登賞」という栄誉ある学会賞を受賞されたとのことで、ビックサプライズでした。医師以外のコメディカルの受賞は初めてということで、私も感激しました。先のセッション後、兵庫医療大学の卒業生とも再会。森沢講師と一緒に記念写真です。1期生はもう臨床で3年目に入っているので、すっかり成長し、発表もしているので頼もしい限りでした。関東で頑張っているのが二人いて、これも凄いことです。心臓リハといいい、前職で他職種の方々との交流が進んだことに、改めて感謝です。

皆様、暑さに負けないでこの夏を乗り切りましょう。私はというと来週は夏休みです。

2013年7月16日火曜日

続:小児臓器提供

 7月14日の朝日新聞で、表記の記事があった。小児臓器提供施設として登録されている367施設へのアンケートの結果である。 法改正後、50例近くの候補事例があったという。小児の提供ができる施設214施設に加えて大人の提供施設にもアンケート送っている。
 12施設で23件の脳死の事例があったとし、提供に至らなかった理由が分析されてる。
家族からの提供の意思表示があったケースは15件で、7件はその後に撤回されている。その理由はいろいろあるが、種々の手続きが重くのしかかっている。家族内での同意のまとめ、虐待の有無の調査、などである。特に後者では、児童相談所への照会が必要で時間がかかること、家族への負担がある、などである。その他、報道された後のことの心配もあった。家族が「こんなに手続きがあるんですね」といって提供を断念したケースもある。
 虐待については、児童相談所への何らかの相談があった場合は一点の曇りをなくする、となるとできない、と現場は言う。その他現場では、小児の脳死判定の経験がない、専門に対応できる医師などの人材不足、虐待に対する院内体制不備、などである。
  以下私見です。全体によく分析しているが、最後には相変わらず、移植へ批判的な意見も添えている。朝日はしっかり自分の意見を出すべきではないか。
 そして、結果は正に「角を矯めて牛を殺す」、ではないか。何とも日本的で規則の運用ばかりに目が行って、心が通じていない。せっかくの法律を行政とマスコミが袋小路へ追いやっているのではないか。最後にいくつかの意見が紹介されているが、「善意は尊いが、人の死を期待する医療は正しいのか」とある。前回の米国で子供さんが心臓移植を受けた家族の話を聞いてほしいと思う。移植待機患者や家族の気持ちを理解できない、理解しようと思わない医師がいる。脳死は人の死で、イコール臓器提供ではないこと、臓器移植は世界で定着している科学的に認められた医療であることを、少なくとも医学会が同じ認識をし、医学教育でしっかり教えてほしいと思う。
 補足ですが、やはり脳死を全般的に人の死とする法律がいると思います。尊厳死も法的に認められないと、救急医療の現場での混乱、苦悩が続くと思います。
 
 

2013年7月14日日曜日

我が国の小児心臓移植はどうなるのか


先日紹介した医療機器の産業化促進プラットフォームのキックオフセミナーは500人もの参加があって盛会でした。神戸での医療機器開発に期待をかける人たちが多いのにびっくりしながら、いいスタートが切れたかと思います。といっても全てこれからです。事務局の黒木さんがコーデイネーターをやってくれるのですが、どういう情報や相談があるか、楽しみです。私も臨床現場でのニーズ掘り起こしをやらないといけません。やはり、すべてはベッドサイドから、という原点に帰ることから始まります。

 さて、先日から冠動脈外科学会、小児循環器学会と続いていますが、話題としては前者ではハートチーム、後者では小児の心臓移植、です。

今日は後者の話です。今年の日本小児循環器学会はもう49回目で東京女子医大の中西教授が会長。私もかって会長をしたことがある子供さんの心臓病を扱う学会ですが、今回の学会では公開講座として「我が国の小児心臓移植はどうなるか」がありました。法律が改正されて15歳未満の方からの脳死での臓器提供が法的に可能となったものの、10歳以下の子供さんからの臓器提供はこれまでお一人だけに留まっています。小児の補助心臓も登場しつつありますが、国内での移植は難しく、依然として海外、米国ですが、に頼っています。そういったことから、会長が何とか改善しないかと企画されました。小児循環器学会がこれまでこれほど心臓移植を前面に出したことは無かったと思います。東京女子医大は成人の心臓移植は行っていますが、小児の認可はまだであり、小児心臓移植施設への仲間入りを願う中西教授の意気込みが感じられました。

公開講座は、司会には川島康生先生も加わり、特別発言には中山太郎前衆議院議員、海外から3人、と豪華な顔ぶれでした。厚労省、産経新聞の後援にもなっていました。阪大の福島先生が先ず我が国の小児の心臓移植が海外での移植に頼っている現状を紹介し加えて外国の方のドナーに依存していることへの社会の認識の在り方、募金で済ませられる問題ではないことを強調していました。特に、米国では海外からの患者を受け入れていますが、数年前ですが海外からの小児の心臓移植はその年7例で全例日本人であった、という事です。これではいけないですよね。

海外からの発表のなかで注目されたのはドイツのケルン大学のブロックマイヤー先生の話でした。まず、欧州は多数の国が集まって一つの合同臓器提供システム(ユーロトランスプラント)を構築していて、全体の人口が13千万人と日本を少し上まわるのですが、年間の脳死での提供数は約600ということでした。日本の20倍近い数です。小児は約10%ですが、もう外国(日本などEU以外)人への提供は出来ないと言われていました。

一方、米国の移植コーデイネーターのロドリゲスさんは、米国全体の話の中で、これまで海外からの患者さんへの提供は5%ルール(その地区や施設での年間総数の5%までは国外の方に回してもいい)のもとで行われていましたが、昨年それが撤回されたそうです。この意味するところは複雑で、米国には多くの多国籍の方がおられることが背景のようですが、日本側から見て歓迎などとは言えない状況であることは間違いないでしょう。

日本側からは米国のUCLAで移植を受けた子供さんのお母さんが登場し、心不全の発病、移植適応と言われ、募金、海外へ、そして9か月の米国での待機後、無事移植が出来、帰国して小学生で野球少年になっている、という涙の物語を聞かせてもらいました。印象的だったのは、米国で待機中にコーディネーターの方がお母さんに、「今貴方はどういう気持ちでここにいるのか、そしてドナーが出てくれることを願ってもそれは何の役に立たない、ただすることは子供さんが助かるよう祈る(?)ことです」と言われ、落ち着いて待機できた、という所でした。ドナー家族からは元気にしているか、一度会いたい、といった連絡があるそうです。

医学的、社会的に貴重な発表は、富山大学での6歳未満の初めての臓器提供に関わった聖隷三方原病院救急救命センターの岡田眞人先生のお話でした。先生は小児救急医のベテランで小児の脳死判定基準作成やマニュアル作りにご尽力された方で、富山大学での脳死判定や提供に関わられました。その経験や経緯から、我が国の小児からの脳死からの臓器提供での課題を的確に纏められました。富山では、ご家族が率先して臓器提供を希望されたので実現したとうことですが、虐待の可能性を除外するため児童相談所とのやりとりで1日、警察との検死でのやり取りで1日、と何日も手続の時間が経つ中で家族はじっとこらえて待っていたとのこと。善意の提供が規則というか法律のもとでということで、家族も主治医も、そして病院も大きな負担があり、後に続く人や病院があるのか心配になります。

岡田先生発表には現状の小児に限らず脳死からに臓器移植が進まない背景のまとめがありました。その中で、1)医師の中で脳死は人の死ではないという人がいる、2)脳死は臓器移植でしか法律で死と定義していない、3)家族(遺族)の子供さんの死を決めるという大きな精神的負担、などが指摘されました。以下は私見ですが1)はまさに我が国の医学教育で欠落しているところであり、病理、法医、脳神経、小児科、といった多くの専門分野の医師が、別々のことを言う。脳死は治療の敗北という人がいますが、何故敗北なのか。医学的科学的事象と個人の感情が混在していると思います。岡田先生は小児救急でドクターヘリを導入した先駆者ですが、経験を基にしたメッセージ(一部しか紹介できていませんが)は重く響きました。

 中山太郎先生は、我が国の国会という法を作る所で、医師を始め科学者が少なく、科学的発展を支援する法律つくりが難しいことをご自身の経験から述べられました。

 この公開講座はまた何らかの恰好で公表されるでしょうが、社会は小児の心臓臓器移植の現状を正しく理解し、どうしたらいいか、考えて欲しいと思います。

 最後に、海外で移植を受けた子供さんが登場し元気になりましたという話の後、皆さんの前でサッカー選手が良くやる宙返りをみせてくれました。

2013年7月6日土曜日

医療機器開発促進のプラットフォーム作り


 早くも7月に入りました。ここ数日は梅雨明けの前兆か蒸し暑い夏日が続いています。異様な湿度の高さで、六甲山も中腹まで薄黒い雲がかかっています。もう一息でいよいよ夏ですが、参院選挙もあり、何か慌ただしい雰囲気です。暫くご無沙汰していましたが、神戸の財団と宝塚の病院の掛け持ちで、落ち着かない日が続いていました。

さて、この4月からですが神戸市から医療機器の産業化のことで仕事をするように頼まれています。神戸は医療産業都市構想で先進医療や医療機器開発支援では実績があるのですが、医療機器の産業化という点では少し出遅れていたようです。一昨年ですか、「関西イノベ―ション国際戦略特区事業」が始まっていて神戸市・兵庫県も参加していて、本年度はその中で経済産業省の課題解決型医療機器等開発事業も始まる所です。その中に「医療機器等事業化促進プラットフォーム」というものが設立され、私が運営委員会の委員長を仰せつかった次第です。

神戸、特にポートアイランドは、中央市民病院を始め先端医療の出来る病院が集まっていて、加えて大型動物実験施設や治験や特許関連の支援組織も先端医療振興財団(井村裕夫理事長)のもとで実績を上げていることから、今回は更にその機構を強化して、医療機器開発のニーズとシーズのマッチングはもとより、審査申請から薬事相談、製品化への支援を窓口を一本化して強化しようとするものです。来週月曜日にポーアイの神戸商工会議所でそのキックオフのセミナーがありますが、関心が高いようで多数の参加申し込みがあるようです。

私は基調講演ということですが、最近の植込み型補助人工心臓の事例を紹介して、産官学が連携して迅速な審査と承認を進めとことを紹介するつもりです。因みに、医療機器産業の実績を厚労省のデーターからみると、23年度は全体で1.8兆円の世界のようです。他の業種でみると化粧品と同じくらいです。何かおかしいと思いませんか。都道府県別では、兵庫県はやっと10位で、これは何とかしないと、と思います。第1位は断トツで静岡県です。県立静岡がんセンターが中心となった医療クラスターが走っていて、加えて光学関係のトップ企業もあってのことと思います。

ということで、来週はこのセミナーもあって忙しい週になりそうです。では追ってその結果を報告します。