2013年12月31日火曜日

今年も大晦日になりました

       早くも大晦日が来てしまいました。皆様には今年1年はどういう年でしたでしょうか。社会的には安倍政権の実質的なスタートの年で、アベノミクスによる景気回復や、東京オリンピック開催決定、楽天の日本一など、元気が出る年になったかの印象です。といっても、消費税増税前でかつ円安ということで経済的には何か落ち着かない気配のなかで、特定秘密保護法の強行採決あり、外交では近隣諸国との関係は先の首相の靖国参拝で一層悪化し、国内では食材偽装、徳洲会病院選挙違反、そして東京都知事の辞任、など内外の心配事も少なくなかったようです。以下、私なりにこの1年を、といってもこのブログを始めた4月からのことですが、まとめてみようと思います。

   まずは6年の学長職から解放されて、心臓血管外科の臨床に戻れたのが何といっても大きなことでした。陸に上がったカッパから水を得た何とかではなくても、本職に戻ったというのが実感です。といっても学長職は自分にとっても大変大きな挑戦もありました。支えて頂いた方々には本当に感謝しています。ではその社会にどう貢献できたかたですが、これは後の人たちが評価してくれるでしょう。とはいえ、チーム医療やボーダレスで旗を振りながらいろんな意味での異文化コミュニケーションの難しさも経験し、さて医療現場に帰ってみて改めて多職種連携・チーム医療とは何か、何がバリアーか、等々現場で再認識をした年でもあります。勿論、大学病院と第一線病院との違いも大きいのですが、基本は変わりないことも実感しました。

   さて臨床に戻ったとは何をもって言うのか、です。白衣を着ただけではなく、外来診察をするだけではなく、私の場合は何といても手術室で何が出来るかです。当然ながら術者でどうこうするのはさすがに控え、若手と一緒に手術するのがせいぜいですが、まずは手術から離れない様にしてきました。一方では手術症例検討会は長年とった何とかで結構気合を入れています。専門性が進んで今の若い人は自分の担当する病気にしか目が届かず、患者さん全体を見る視点がともすれば薄れるところを、カンファレンスなどで補っています。
  
   このブログも名前を改めて再開し、9ヶ月、毎月3ー4件ほどで、全部で33件になりました。最近は閲覧数が急に増えて何事かと思ったら、例のリファラスパムでした。無視に徹しています。皆様にご迷惑にならないよう願っています。肝心の内容では、教育現場から離れたことや私が関係する学会や研究会、そして委員会などに限られていることもあり、ごく狭い領域での医療事情になっています。カテゴリーでは、やはり臓器移植が多くなるのは仕方がないとしても、小児の臓器提供がゆっくりではりますが歩みだしたことが印象的でした。後は、日本移植学会や心臓移植研究会の記事を書きながら何が課題かも触れてきました。臓器提供が法改正後急増したとは言え、とりあえずの(最低限)目標である年間50例はもう少しですがまだ達していません。この12月になって5例の提供があり、今日現在で47例になったことは注目していいと思いまます。心臓移植も37例とこれまでの年間数の最大まで増えていますし、心肺同時移植も2例目が行われ、岡山大学でも小児の心臓移植が実施され、施設言うと後は北海道大学で行われれば9施設全てで実施というひとつの節目になります。もう一息です。
  
   医療問題では医師不足、医師偏在、地域医療崩壊、などが依然として懸案事項であり、その解決策の一つが専門医制度と個人的には捉えている訳です。総合診療専門医のことはその後触れずじまいでしたが、またなにか展開があれば紹介したいと思っています。さて、その専門制度改革も大詰めに来ていますが、最後の段階になり第三者機関とは何かで釈然としない状況があり、私見としてを述べさせてもらいました。日本はなぜか後になって偉いさん達が出てきて仕切る、という構図が多いようです。米国では専門医制度は医師の卒後教育の最初の段階としてほぼ義務化し、かつ保健機構が資金を出しています。制度は標準化とピアレビュー制を取り入れ、80%以上の卒後医師がこれを乗り切って医療現場で活躍していますが、わが国ではそこまで踏み込めないのは何か、を考えさせられた1年でした。文科省と厚労省、医師会と学会、といった対立構造は何とかこれを機会に解消しないと、医師偏在も何ら改善しないでしょう。

  多職種連携では、特定医療行為をあるきまった教育を受けた看護師ができる制度(以前特定看護師と言われていたもの)が来年の通常国会で提案される予定です。看護系の中でもいろいろ意見がありますが、まずはしっかり制度を作り、現場でその真価を問いながら育てて行くべきものと思って、法律制定(保助看法一部改正)に期待しています。関連して、薬剤師やリハビリテーション分野でも専門資格の制度作りが進むと思いますが、医師の制度作りを参考にされるものと思います。その中でも触れましたが、米国での専門職の教育や評価制度での特徴はコンピテンシーという概念の登場です。その中核をコアコンピテンシーとして、目標設定を行うものです。わが国の新た専門医制度作りの中で、年末には基本となる制度整備指針がまとまってきましたが、その中の専門とは何かのところで、このコアコンピテンシーを採用してもらいました。グルーバル化の点からもいいステップだと自負しています。どう活用されるか注目です。国際移植学会は学長ブログ時代に触れましたが、来年4月に再度サンディエゴで開催されます。その案内を見ると、学会前の教育セッションでは 幾つかのテーマがあり、そのサブタイトルが、コアコンピテンシー、となっています。どう言う意味でこうなったのか、出来れば参加して実感してみたいと思います。

   その他には、三浦雄一郎さんの80歳でのエベレスト登頂もありました。といったことでこの1年(9ヶ月)が済んだ訳ですが、幾つか簡単に補足します。学長退任後、神戸新聞から6月の1ヶ月だけの紙面批評コーナの担当を任され、ブログ並みに5本を頑張って書きましたが、いい経験をさせてもらいました。もう一つの仕事の神戸国際医療交流財団のことは触れずに来ましたが、なかなか紹介する話もなく、正直いろいろ迷いながらの1年でありました。来年春には新たな出発になるかと思いますので、また紹介させてもらいます。一方では、神戸市の医療機器開発のプラットフォームは何とか滑り出していて、来年は実際のモノ作りの活動が始まると思っています。

   趣味では、アウトドアースポーツに限ると、大きな節目(?)の年でもありました。スキーのオフシーズンは自転車になって長いのですうが、ロードバイクを楽しみ出して4年が経ちました。週末に近場を走るという程度ですが、心臓血管外科の自転車組に刺激され、日曜の午前中に何とか50キロくらいは走れるようになってきました。スピードは上がらず、坂上りはほぼ無理、という状況から、今年は長距離(ロングライドといいます)への挑戦でした。まずは5月の大阪での学会の後に淡島へ出かけ、一周ではなく南側の坂をショートカットした90キロを何とか走り切りました。途中でステーキ屋での一服というのんびりしたものですが(左写真)、これで少し自信がついて、思い切って秋の大きなイベント、淡路島一周ロングライド150に登録しました。2000人からの参加がある“あわいち“と呼ばれているもので、海岸沿いの一周が丁度150キロになります。923日、前日から泊まり込んで、朝6時に夢舞台のあたりから出発、途中で4箇所の補給処があるのですが、南の坂登は予想以上にきつく、押して歩く始末(たくさん歩いています)。エネルギーの補給が大事ですが、そのコツも分からないまま前半で体力消耗。でも午後4時までにゴールという時間制限に少し遅れましたが、何とか完走できました。休憩を挟んで8時間あまりの死闘でした。途中で低血糖、筋痙攣などもありましたが、何とか完走、写真の証明書をもらいました。その後は、もう自転車は結構と、という雰囲気でしたが、何とか続けています。有酸素運動で心肺機能維持にいい運動です。ただ、体重を減らさないと坂上りは難しく、来年の課題です。 ”あわいち“に再挑戦するかは未定としておきます。




  さて、年末になり雪情報も来る中、もう初滑りも済ませています。写真は、大雪の山陰地方の中で大山から日本海方面を見たものです。米子市内が真っ白です。左遠くに中海も見えます。体ですが、関節の手術をしたのが嘘のようで、整形の主治医に感謝です。
 
 
では、皆様良いお年をお迎えください。また、この身勝手なブログにも変わらずお付き合いください。改めてこの1年、有難う御座いました。

2013年12月24日火曜日

 本邦2例目の心肺同時移植実施

 本日朝の新聞に、本邦2例目の心肺同時移植が阪大病院で成功裏に行われたというニュースが出ました。昨夜にA紙の記者から電話があり、コメントを求められ少々びっくりしました。いくつかのポイントの中から、技術的には難しい移植で、肺の癒着があれば特に大変であることや、臓器の虚血時間が長くなること、拒絶反応の診断が難しくなること、そして移植手術自体から後の管理で心臓と肺の移植チームの連携が問われる、という内容を話し、要点が紹介されていました。心肺移植は癒着剥離が大変で、大量出血や大量輸血は予後に影響するのですが、病気が第1例のような先天性心臓病に伴う肺高血圧ではないので今回は癒着剥離はそう問題ではないと思うとも伝えていました。かっては気管吻合が上手く (縫合不全が起こらない)行くかが成功へのキーでしたが、今は技術的にこの問題は克服されていると思います。臓器虚血は実際どのくらいになったのか分かりませんが、多分そう問題にはならなかったと思います。岡山大学の佐野教授もコメントしていたように、拒絶反応は心臓と肺で別々に起こるので、診断や治療が難しくなります。阪大チームもこれからが正念場ですからしっかり頑張って欲しいと思います。
心肺同時移植は世界で最初に成功したのが1981年(心臓に遅れること14年)で、その後これまで世界では約4、300例に行われています。当初は年間300例近く行われていましたが、ドナー不足や成績があまり良くないことで、最近は年間6-70例減ってきています。また、移植後の合併症が多く、世界の統計では1年3年7年の生存率はそれぞれ60%、50%、40%と、心臓や肺単独に比べ劣っています。ただ、日本では最初の例が既に移植後4年近くなります大変元気にされていますし、心臓や肺と同様に世界の成績より優れた成果を今後も上げてくれると期待しています。
心肺移植に使われなかったら、別の3人への移植が出来た(心臓、片肺x2例)ということにもなり、ドナー不足のなかでは厳しい患者選択になりますが、我が国の心肺移植の患者選定基準はかなり厳しくなっていて、周囲の納得が得られるものと思います。何れにせよ、臓器提供されたドナーの尊いご遺志と家族の活断に敬意を表します。また提供病院の方々も大変だったと思いますが、ネットワークや他の臓器の関係者に移植医療の素晴らしさを示して頂き、僭越ながら感謝申し上げたいとます。改めて臓器提供の尊さを思い,ドナーのご冥福をお祈りいたします。

2013年12月20日金曜日

第三者機関


 最近、第三者機関という言葉がしばしば新聞紙上に出てくる。スポーツでの暴力的指導の問題や学術研究での不正防止などが話題になった。直近では、先般の国家で紛糾した特別秘密保護法に関して出てきている。国会や官僚が暴走しないようにお目付け役をおいて客観性を保つ、安倍首相が後付けのように出してきているようだ。その他、医療に関することでは、医療事故調と最近の専門制度改革である。医療事故の第三者的調査機関の必要性は日本外科学会が音頭をとって10年以上前に提案し、その後、国がこれを受け継いで行った経緯がある。自民党時代に出たものが、民主党政権になって内容の修正があり、それに医療界からの反発があって今まだ店晒し状態となっている。そのうち国会で法案がでることになっているが、医療事故の第三者機関は立ち上がっていない。

第三者機関とは、当事者の利害関係の外にあって、客観的に(第三者的)に物事を公平校生に判断して、適切な対応をする役割がある。しかし、この第三者機関は現実にはなかなか曲者であり、お題目どおりには行かないことも多い。というのは、医療事故でもそうであるが、全くの部外者だけでは対応出来ないのが現実であり、何らかのその分野の関係者の代表が入ってこないとことは進まない。医療には不確定要素があり、不測の事態も発生するから、全くの第三者だけでは対応できない。その分野の専門家がはいってうえで、客観的な判断をすることで役割が果たせるものである。

もう一つの第三者機関は、専門医制度での話である。これまでも概要は紹介しているが、従来の専門医制度ではその領域の学会が自分たちで基準を決めてその上で認定していた。そこを取り仕切っていたのが社団法人日本専門医評価・認定機構である。この機構は当事者である学会の集まりであって、そこが物事を決めて専門医を認定しているので社会的に評価されないのでは、となってきた。そこで、新たな仕組みが作られつつあるが、今までの機構は解散し、新たに第三者機関を作り、そこが管轄する、ということがこの4月の厚労省からの専門医の在り方の基本として出された。

現在、専門医制度の第三者機関の立ち上げの準備委員会が動き出していて、金澤一郎先生が委員長である。その案を見ると、名称は日本専門医機構(仮称)となっていて、議決権のある構成員(社員)には日本医学会と日本医師会、四病院団体協議会、全国医学部長病院長会議、日本専門医制度評価・認定機構5団体が挙げられている。これまでの機構の役割的な継続はなんとか繋がるようだが、そもそも今のこの機構は解散することになっているからここがどうなるのか。それにしううても新たな第三者機関は何とも頭でっかちで、どう動くのが見えてこない。実際の管理運営や付帯的な作業は各学会がやらないとだれもしてくれないのである。上記の社員の組織からはお金も出ないし人も出ない。第三者という葵の御紋のシンボル的な役割に見える。では誰が実際担当するのか。先般の今の機構の社員総会では、この新たな組織案について侃々諤々の議論,というか手厳しい質問がでた。学会のまとめ役である今の機構を残して新たな組織に入らないと何も出来ないのでは、なぜ遠慮しているのか、という意見である。

学会主体の構造が悪い(語弊があるが)とされたのは、専門医認定基準や研修施設認定で,制度間の基準の標準化が出来ていなかったことと、外部調査(ピアレビュー)制度がなかったことに集約されると思っている。今、第三者機関と言ってもそれをやってくれる実働の第三者は誰もいないし、肝心のお金もない(米国は保健機構がレジデントのサラリーを出している)。学会などの当事者が運営する見かけだけの第三者機関でもこまるが、私は上記の標準化とピアレビュー制度を組見込めば、今の機構の主要部分が入って主体的に動いても対社会的に十分納得してもらえると信じている。

専門制度改革においても、第三者というイルージョンに惑わされるのではなく、本質は何かを良くわきまえての制度改革が必要である。そうでないとこれまでの長年の関係者の努力が報われないし、う危険があると思う。専門医制度が変わろうとしているなかで、第三者機関の内容が少しずつ見てきているが、要フォローである。

2013年12月5日木曜日

小児心臓移植の抱える問題


 先週の心臓移植研究会の最後は、特別セッションとして「明日へのメッセージ、小児の心臓辞職」があった。現在、小児(11歳以下)の実施認定施設は、阪大、国立循環器、そして東大であり、それぞれから重要な発表があった。その概要を紹介し、課題をまとめるが、同時に産経新聞が先月から連続して臓器移植の問題を取り上げていて、最後に示唆に富む内容があったので触れておきたい。

まず、国立循環器病研究センターの市川肇先生(私が阪大在職中の小児心臓外科手術のパートナー)は、当該施設が小児用人工心臓の治験参加施設であるが、その候補者の治療経験を述べた。即ち、補助人工心臓が要りそうでも内科治療をきちんとやってみるとでも結構効果があり、人工心臓装着を回避できる症例も少なくないとの意見であった。人工心臓をつけても国内での移植という行く先がない状況を考えて、保存的治療の最後の砦として頑張っている気概を感じた。それでも今後は人工心臓が必要となる症例も出てくるのではと思う。

東京大学心臓外科からは小野教授が最近導入されたドイツ製の小児体外式補助人工心臓(ベルリンハート)の成績が報告された。これまで4例が治験で治療を受けている。1例が米国で移植を受け、残3例が待機中とのことで、我が国でもやっと小児用の人工心臓が使えるようになった。とはいえ、その先の移植がむつかしい状況は変わりなく、海外に依存しているのは何とも歯がゆいことである。募金の額も上がっているようだ。

阪大病院の福島先生が小児の心臓移植に伴うあまり表に出ない課題と対策についての発表であった。それは、子供さんの移植は単にその子供さんが移植を受けるかどうかだけではなく、親はもちろんのこと兄弟へも配慮し、家族ぐるみのケアが必要であることである。そのため、移植外科医や小児循環器医だけではなく、心のケア(心理支援)が出来るスタッフが必要であるということであった。阪大病院小児病棟ではチャイルドライフスペシャリスト、child life specialist (CLS)  がおられて、医師や看護師、そして臨床心理士とともに大事な役割を果たしているということでした。米国の試験と小児病院での実地研修を終えてこの資格を取った方が日本でも働いていることで注目されているそうです。CSLは日本では20数名がおられ、大学病院小児科病棟や小児病院で頑張っているようです。
チャイルド・ライフ・スペシャリスト協会のHP:http://childlifespecialist.jp/

恥ずかしながらそういう職種があることも知らなかったのですが、米国でその資格を取って日本で小児医療の中での心のケアや心理面でのサポートをしていることにも驚きました。看護師がなるというものでもないようです。移植や小児がんの患者さんを支援するこういう方がどんどん現れて、小児病院や移植病棟で活躍して欲しいと思います。海外に任せないで日本版CLS認定が欲しいです。

最後は東京女子医大東医療センター布田先生がこれまでの多数の海外での移植例を見た経験からの提言でした。即ち、小児心臓移植の定着;それは我が国の医療の試金石、というタイトルでした。小児の心臓移植が進まないのは大人も含め臓器提供全体が伸びないことの表れであり、臓器移植や臓器提供について原点に帰って関係者は社会啓発に努力しないといけないし、移植に限らない医療の本質の問題である、というメッセージでした。社会の関心が薄れているのが問題で、我々は機会あるごとにドナー不足と移植医療の素晴らしさを訴えて行かねばならないと感じました。ドナーが足らない、とばかり言うのも問題であることも理解し、社会に命のリレーをもっと知ってもらうため、どうするかが問われているようです。このシンポジウムのことが後日マスコミにどう出るのか、期待しています。

さて、産経新聞の記事を紹介します。それは、心臓病の子供を援助する「明美ちゃん基金」の話でした。この基金は昭和41年に出来たもので、心臓手術を受ける明美ちゃんを経済的に助けようと産経新聞が始めたものです。これまで心臓病の子供さんへの手術などへの経済的援助が行われてきましたが、今年になって初めて国内で心臓移植を受ける子供さんへの支援がされたということです。10歳代の子供さんへで、この8月に東京大学で2年以上の補助人工心臓をつけた後、無事に移植を終えています。心臓移植は保険適応になっていますが、ドナー病院への摘出チームの医師の派遣(交通費)、摘出された心臓を移植病院へ運ぶ費用(チャータージェット代)、そして移植を受けた子供さんの家族の滞在費、が保険外なので基金の対象としたということです。
この自費負担を支援するもので、金額は明らかにされていませんが、数百万では済まない額でしょう。何故そういう費用が要るのかですが、臓器の搬送やチームの交通費は保険対象外で、特に臓器の搬送費用は患者さん負担です。かって阪大でも経験したのですが、移植が決まって承諾書をもらうとき、搬送にかかる費用(チャータージェット機代で距離によっては100万近い)は自己負担であるということを病院長に認める書類に印鑑を押さなければ、日本臓器移植ネットワークはレシピエントの最終決定をしない、ということでした。払えるかどうかの話はしないで(事前には説明している)最終的には病院がかぶる覚悟で進めたとこを思い出します。この基金の支援の話が、小児心臓移植の発展につながればいいと思います。

この記事では患者さんや家族は匿名で、居住地も明記していません、と書かれています。写真は斜め後ろからのものでした。なぜ名前も出さないのか、という疑問に対しての説明でしょうが、臓器移植法のガイドラインのことが記されています。即ち、「臓器提供者の情報と移植患者の情報がお互いに伝わらないように細心の注意を払う」ことが求められている、という内容です。これはかって米国でもそうでしたが、お互いが分からにようにするのが原則でした。しかし、今はドナー家族とレシピエント(家族)が面会することも多くなっていますし、日本でもドナー家族の集まりも行われていいます。私は以前から、移植を受けた患者さんはもっと顔を見せて欲しい、それが社会への感謝であり、次に繋がることになる、と思っています。強制はできないのですが、そうして欲しいと思います。何も互いに面会するのではなく、移植を受けた方が顔を見せ、表に出るということが何故できないのか。それを妨げるのがこのガイドラインの趣旨という記事です。以前、日本臓器移植ネットワークの方に聞くと、それは強制する(患者情報を公表してはいけない)ものではなく、移植の現場の方々が決めていい、という話でした。ガイドラインの趣旨も変わりつつあると思うので、産経新聞の記者の方と一度話をしたいと思います。再開から15年近くなっているのですから。

ということで小児心臓移植の話題を紹介しましたが、小さな子供さんの脳死での臓器提供がどうしたら増えるのか、改めて考えたいと思います。同時に開いた、日本心臓移植研究会幹事会で、今後の学会の活動方針として小児心臓移植の推進を最重要課題としてみんなで努力をしようということになりました。

産経新聞から(11月30日朝刊から転用です)

 

2013年12月2日月曜日

心臓移植研究会報告

   先週の土曜日、さいたま市の大宮で第32回の日本心臓移植研究会が開かれました。前日に東京大学で心臓移植が行われたということで、本年は計32例で、これまでの年間最多数を記録しました。50例までもう少しというところです。実施施設では、国立循環器センターと阪大が累計50例を超えましたが、東京大学も今年は施設としては最多で、先行の2施設を追い越そうとしています。北海道大学と岡山大学ももうすぐ仲間入りでしょう。

さて、先日紹介しましたが、今回の研究会では植込み型補助人工心臓の適応拡大と小児の心臓移植、の二つメインテーマで熱い議論が行われました。前者では、植込み型が急速に増加していますが、移植適応判定の手続きが完了しないと保険償還が出来ないという縛りがあり、現場では移植の適応にはまず間違いないないが、手続きが済まない段階での装着が求められ、見切り発車もある程度容認さているようです。とはいえ、此処をしっかり押さえておかないと、保険償還で問題を起こしたら今後の適応拡大の話も無くなるので、お互い注意しないといけません。ただ、適応のお付きを絶対とすると、本来植込み型を入れたいが合併症の多い体外式や他の一時的補助を敢えてして後から植込み型にするという遠回りをしいといけないジレンマが生じます。患者さん第一ではなくなるのです。

この辺りの判断の仕方について、東大内科の絹川先生がうまく整理されていた。

即ち、BTT(心臓移植へのブリッジ)の予備候補として、装着して死亡を回避しながら移植適応があるかをその後で考えるbridge to decision、最終判断の為のブリッジ、あるいはほとんど移植適応と言って良いが保険適応の手順が完全でなく植込み型が使えないという BTT-likely(ほとんどBTT)の二つがあり、植込み型の保険適応上の拡大のステップとして使えるのでは、という内容でした。今後の関係学会での議論(12月末開催予定)のたたき台になると思われた。 植込み型に直接行くについては後者はいいと思われるが、前者は植込み型を付けても肝不全とか感染とかの臓器不全が起こり易いので、臓器障害の上限のレベルの設定が必要という議論であった。

一方、移植への橋渡しでない、いわゆる永久使用(海外ではDestination Therapy)についても盛んに議論されたが、永久使用はそもそも移植適応外の高年齢(60とか65歳以上)の患者さんが主な対象となると思われるので、今の移植対象者での各施設の経験からの永久使用の議論は適切ではなく、別の対象について議論がいると思っている。そこで、例えば心不全学会主導で対象者の調査をして決めて行くのが筋ではないかと提案させて貰った。このことは前日の心不全学会総会でも学術活動で進めて欲しいと理事長に要望しておいた。

  小児のことについては別に書かせてもらいます。