2014年10月30日木曜日

我が国の心臓弁手術で遅れていること


 心臓弁手術のことを触れたついでに紹介しておきたいことがあります。なお、先の内容と重複するところが多いですが、後で調べて分かったこともあり、補足することにしました。一度で済ませられなく、要領が悪くてすいません。

  心室の出口の大動脈弁と肺動脈弁では修復が難しく、取り替える手術(置換)がどうしても必要になります。そこで登場するのが人工弁です。これには機械弁と生体弁があり、前者はパイロライトカーボン(炭素樹脂)という素材で出来たもので、ワーファリンによる抗凝固治療が必須です。生体弁はブタやウシの大動脈弁や心膜を処理したもので、抗凝固治療は必ずしも必要ではありません。前者は耐久に優れていますがワーファリンが要りますし、出血傾向も出ますからQOLでは劣ります。生体弁ではワーファリンは必須ではなくその点ではQOLはいいのですが長期的には石灰化が起こって再手術が必要になります。とはいえ最近は優れた生体弁が出てきて、高齢者の大動脈弁置換ではよく使われます。年齢的に10年持ったらいいという場合は生体弁が有利です。

   さて生体弁というと海外では亡くなった人(ドナー)から頂いた同種弁(ホモグラフト)が普及しています。1960年代に英国で始まって、その後長らく重要性が認識され使用されてきました。肺動脈弁と大動脈弁があり、ともに血管付です。ホモグラフトは欧州とニュージーランド、そして豪州で先駆的に始まりましたが、当時は凍結ではなく特殊な保存液で処理していました。先天性の複雑な手術ではホモグラフト(血管も使います)の使用が大変有用なのですが、我が国ではこの入手が殆どなく外科医や患者さんには大ハンデイでした。

  ホモグラフトの処理としては現在は液体窒素での特殊な凍結保存です。特に薬物での処理はしませんので組織が壊れずに保存され、また免疫反応も少ないのが特徴です。またしなやかで操作性が高く、人工物がなくて感染に強いという利点があります。また小児のドナーからのものは先天性心臓病の小さな子供さんで大動脈や肺動脈の再建をするときに有用です。しかし、ドナーの細胞が残っているので耐久性では限界があるのも事実です。その後ですが、米国の会社(CryoLife社)がホモグラフとを商品化していて我が国でも輸入すれば使えますが大変高価で実用性は残念ながら低いのが現状です。

   さてホモグラフトの入手ですが、脳死と心臓死のドナーの方からの提供です。死亡後に心臓を頂き、弁を提出し、バンクで凍結保存します。我が国では既に日本組織移植学会や日本組織バンクがその普及に尽力し、現在は当初の東京大学と国立循環器病研究センターに加えて全国で6つの認定バンクがあり、また心臓弁と血管の臨床応用は先進医療制度(一部患者さん負担)として2006年からも上記の二施設で適応されています。ただ、提供が脳死と同様に少なく、その数は大変限られています。昨年度では血管も含めると年間40件(心臓弁手術数は不明)の先進医療が行われていますが、施設が限られ、またドナー数は年間10にも届いていません(東京大学病院HPから)

   こういう中で、生体弁の新たな開発に鎬を削っています。免疫反応の回避と長期の構造維持です。その中で、生体弁の脱細胞処理と人工的に作った足場(スキャアホールド)に自己の細胞を生やす二つの方向があります。後者は日本でも研究が盛んで、東京女子医科大学で臨床試験も行われていると思いますが、今日は前者に限ります。先の米国の会社はホモグラフトの脱細胞処理法で特許を取っていますし、その会社の製品は既に臨床で大動脈弁置換に試験的に使用されています(2003年報告)。一方ドイツでも別の方法がハノーファー大学で開発され、臨床応用のためのベンチャー企業が出来ているようです。そこで処理された肺動脈弁が今度阪大で使われたとものと理解されます。この脱細胞弁ですが,使うのは基本的にはヒトの弁であります。従って海外では如何にしてドナーを増やすか国(ネットワーク)や学会挙げて取り組んでいます。これは心臓移植を増やすことにも繋がり、移植に適しない場合は弁と血管の提供となります。日本でも関係者の努力で徐々に進んでいますが、何しろ亡くなった方からの臓器や組織の提供は本当に限られているのです。事態は深刻です。

   振り返って見ると、ホモグラフトがあると日本の心臓外科のレベルはもっと高くなり、多くの患者さんが恩恵を受けることが出来るのです。私もかってホモグラフトがあればもっと良い手術が出来たのに、と思ったことも何度かありました。しかし今、世界はもう次の時代に入っていて、そのキーが脱細胞によるtissue  engineering(組織工学)弁です。阪大病院の澤教授のグループはドイツと連携して我が国での先鞭をつけたといえるでしょう。一方、日本で進めるにはドナーが今のようではこの技術は進まないという現実も理解しないといけないと思います。ここで強調したいのは、脱細胞弁も元はヒトのホモグラフトであり、臓器提供が初めにあることを多くの方に知っていただくことが大事と思って追加の投稿としました。ホモグラフトについては、東京大学病院と国立循環器病研究センターのHPで紹介されていますし、組織移植学会でも啓発に努めています。また、日本臓器移植ネットワークも支援しています。こういう臓器提供もあることをもっと知ってもらえればいいと思います。


  今月は随分頑張りました。いろいろ興味あるテーマがあったからでしょう。11月に入ると急速に寒くなっていきますが、皆様風邪など引かないよう,また秋の紅葉もお楽しみください。

写真は先日、神戸は新神戸駅の近くの布引の滝に行ったときの写真です。まだ紅葉は始まっていませんでした。

2014年10月29日水曜日

新しい心臓弁手術

先日は阪大病院で新しい心臓手術の発表がありました。自分がやってきた領域なので少し解説とコメントを書きます。
患者さんはファロー四徴症の根治術を2歳で受け、遠隔期に肺動脈弁が痛んできて再手術となった30歳の男性でした。根治術は私が在籍したときに行われていますが、顔を見ても思い出せませんし私が術者ではなかったと思います。この病気は先天性の心臓病で、大きな心室中隔欠損(孔が開いている)に加えて右室の出口の肺動脈弁が狭く(狭窄)なっていて黒い血液がそのまま体(大動脈)に流れてしまいチノーゼ(唇などが紫色になる)が出る病気です。解剖学的には四つの異常がありますが、根治手術は欠損孔の閉鎖と右室の出口の狭窄解除です。根治手術の成績も不良な時代がありましたが、1980年代には安定し,かつ遠隔期にも再手術や不整脈などの合併症が出ないような工夫がされた時代でした。それでも肺動脈弁の逆流とか狭窄の再発が起こります。そのための心不全や活動制限が出れば再手術で肺動脈弁の再建、あるいは置換、が要ります。この場合、人工弁(生体弁)であれば弁逆流や再狭窄が将来来るので、どういう材質で再手術するのが今でも懸案であります。

このような背景があるなかで、ドイツで加工した人の弁(肺動脈弁)を輸入して行ったということです。弁置換は理想的には人の弁がいいのですが、他人の弁では拒絶反応が起こり、それを防止する処理をすると石灰化が起こるという問題があります。よく使われる豚の弁では石灰化が起こります。これを解決する方法の一つがtissue engineering 組織工学技術です。免疫反応の元となる細胞をすべて取り除き細胞のない骨格状態(スキャホールド)にして移植すると、今度は患者さんの自分の細胞がそこに根付いて、暫く経つとまさに自分の弁になるというものです。再狭窄や弁の破壊などが起こり難いと考えられています。脱細胞ではなく骨格のみを人工的に作ってそれを移植手術の前に患者さんの皮下に植えて、細胞を生やしてから取り出して心臓に使うという方法もあります。
脱細胞技術は再生医療の研究分野で日本でもよく使われていますが、今回はドイツの企業がそのノウハウをもっていて、阪大とドイツのハノーファー医科大学との共同研究(研究に国費が使われている)の成果でしょう。ドイツではヒトや動物の脱細胞弁の基礎的実験が進んでいます。ヒトの大動脈脱細胞弁による大動脈弁置換はまだ実験段階のようですが、脱細胞技術は米国の会社が特許をもって商品化を目指しています。日本も技術があるのにどうして自前でできないのか、という気もします。
 注:上記の項、一部修正しました。アンダーライン
個人的には興味あることが2-3あります。まず、使った元の弁がどういう方から頂いたのかです。心臓移植を受けた方の摘出心臓からまだ使える弁を取り出す方法と、亡くなった方で心臓移植に使えない心臓から弁を頂く場合があります。後者は日本でも行われています。この辺りを報道することは臓器提供や心臓移植を進める上での社会的メッセージ性はあると思いますが、日本のマスコミはどう捉えるでしょうか。日本人の弁をドイツに運んで処理して日本の患者さんに戻す、というシナリオもあればいいと思います。将来は全部自前でやることが最終目標でしょうが。

後は、今回は成人例でしたが、小児ではどうかでしょう。小児でそれこそ再手術が要らない脱細胞化弁が使用出来ればいいですが、弁のドナーのことと、脱細胞弁が成長するのか、ということへの回答が要ります。 もう一つは、人工弁ということでは大動脈弁置換が既に沢山行われ、術後に抗凝固療法が必要な方が多いのです。ここに脱細胞弁が大動脈弁置換の世界に登場すれば大きなメリットが出てきます。次のステップとして計画されているでしょう。ただ、弁にかかるストレス(圧)は大動脈弁で当然強く、肺動脈弁とは大きく違います。大動脈弁を使うにしろ、これに耐える脱細胞弁が出来るか、大変興味があります。多分、今回の処理方法で既に強度が保たれているのではと想像しますし、多くの患者さんが期待していると思います。今回の成果はその先がどうなるのかを考えて注目する必要があるようです。


iPS細胞から弁や血管を作ることも出来てくるでしょうが、人間が作った自然のものが身近に沢山あって、その活用も忘れてはいけないと思います。

2014年10月23日木曜日

iPS細胞で心筋再生治療、新たな展開

 今日のニュースですが、iPS細胞の研究でまた新たな展開です。京都大学の山下教授のグループがヒトiPS細胞から作った心筋組織シートをラットの心筋梗塞モデルに移植し心機能の回復が得られたと言うものです。心筋細胞だけでなく心筋組織のシートであり、これをヒトiPSから作ったこと、しかも動物で成果が出来たこと、ということが素晴らしいことです。世界初です。

これまで阪大では骨格筋芽細胞シートの臨床応用を進めていて、心筋症の患者さんの心機能が改善したことが報道されています。この筋芽細胞を用いたシートでは心機能の回復はサイトカイン効果という、植えた細胞から出てくる生理活性因子(蛋白)によることが明らかになっています。ということは、シートにした細胞自体が心筋と同じように,また残った心筋と繋がって、収縮したりするものではなく、いわば薬を放出する装置的な役割と考えられています。またこれまでのシート治療は使われる細胞に制限があり、真の心筋再生(新たに心筋細胞が出来る)とは言いがたいところがありました。そこで当然の流れとしてヒトiPS細胞からの心筋再生の研究が活発となり、阪大や慶応義塾大で精力的に進められているようです。そういうなかで、今回の京都大学の成果は大きなステップを刻んだわけです。なお、培養した細胞をシート状にする技術は東京医女子医大の岡野光夫教授の発明した温度応答性培養装置であり再生医療研究を大きく発展させています。

さて、これまでの心筋細胞シートでは心筋以外の血管や支持組織を組み込むことが出来ないという大きな課題がありました。細胞に酸素や栄養を送るライフラインが出来なかったということです。これに対し京都大の山下教授らは、ヒトの皮膚細胞から作ったiPS細胞(元の細胞)にこれまでと異なった刺激因子を加えることで、心筋細胞だけでなく血管となる細胞(内皮細胞と平滑筋細胞)も同時に出来ることを発見し,これらの細胞が混在したままでシートにする成功しました。心筋組織シートです。さらにラットでの実験でこのシートが4週間後にも生き残ってかつ血管も出来ている、というまさに心筋組織が生着していたという結果です。また心機能改善効果は2ヶ月後にも続いていました。
(この部分、一部修正しました)

今後は大動物での実験や、がん化しないか、どの位の大きさまで作れるのか、特発性心筋症ではどうなるのか、などなど課題は沢山あります。しかし、iPS細胞を使った再生医療が、眼科領域から心疾患にも確実の進んできています。他の大学の成果も併せて、日本版シート工学による心筋再生治療を実現していって欲しいと思います。

さて、またまた余分なコメントです。TVニュースでも心不全の究極の治療である心臓移植はドナーに依存するという限界があり、これに変わる再生医療といういつものフレーズが出てきます。米国では人口が約2倍でも心臓移植は毎年2400例ほど行われています。日本は年間50例にも届きません。人口比で24倍です。子供さんは相変わらず米国に行って移植を受けています。日本ではだから再生医療を、ではなく、心臓移植もしっかり普及した上で再生医療も、というべきです。今、心臓移植を待っている多くの患者さんは再生医療まで待てないのです。今、全ての臓器でドナー不足は深刻なのです。


2014年10月17日金曜日

心不全学会から,その2


心不全学会で得られたいろいろなメッセージの中で、社会とのつながりで言うと心臓移植の現状の理解をもっと進めるべきことと共にドナー不足が深刻であること、そして一方では心不全が悪化しないうちに何か手立てを考えよう,という動きもありました。
一つは心臓再同期療法、CRTという治療(ペースメーカーの一つ)のことです。 心筋梗塞などで一部の心筋が壊死になると心室の動きがおかしくなり、十分なポンプ作用(体に血液を送る)が出来なくなります。動きがぎこちなくなるのです。こうなると心臓の中の電気パルスが右室側と左室側で遅れが生じ、十分な働きが出来なくなります。左右の心室の間の壁(中隔)がうまく連動しなくなり、左右の心室の働きが合わずに心不全症状が出ます。この場合に心電図のQRSという心室内の伝達波形が間延びしてきます。脚ブロックとも言われますが、これをペースメーカーでタイミングを調整して,心室内の刺激伝達を左右の心室が協調できる様にするのが再同期療法CRTで、右室側と左室側にリードの先端を置く方法です。

CRTの適応は心不全がかなり進行したNYHAという心機能分類でクラス3度か4度(ともにかなり重症で4度は最も悪く救命処置や移植とか人工心臓が要ります)に限られていました。しかし、このCRT療法は確かに心不全症状が見事に改善する患者さんもあるのですが、一向に効かない患者さん(ノンリスポンダー non-responder)も少なくなく(3割とも言われています)、コストの高い治療ですから医療経済上も問題視されてきました。米国ではQRSの幅が狭いと効かない場合が多いから、QRS幅を従来の適応レベル120msc以上より150msc以上(かつ左脚ブロック)にすべきという警告が出たくらいです。日本でもこのノンリスポンダーが結構多いのでは、ということで学会が調査を始めた経緯があります。
今回の学会でも米国からの発表で、心臓の機能があまり悪いとこの治療も限界でクラス4度では効果が薄く(予後改善にならない)もっと軽い症状のうちから適応したほうが予後改善になるということです。そのため、米国は適応をこれまでの3度4度に限っていたものを2度(心疾患はあるがあまり症状がなく日常生活での制限はまだ軽い状態)にも広げたのです(下記のWeb参照)。そして日本でも近々同様に2度にも拡大することも知りました。外科医はあまり情報が来ませんが、日本では心電図のQRS幅を150msc以上(心電図では重症)に限ったようです。これは米国の研究者も評価していましたが、エビデンスに基づいた判断は納得できます。なお、米国はまだそこまできつくしていないとのことでした。

こういったデバイス治療の適応拡大(軽い人に拡大)は今後の成果が注目されますが、これまで新しい心不全デバイス治療は最重症例から始めることが過去にたくさんありました。大動脈バルーンポンプ、補助人工心臓、心臓移植(世界の黎明期)もそうでした。坂を転げ落ちだしてからでは臓器不全もあり心臓の回復力もなく、結果は期待に背くものでした。そういう歴史もあり、補助人工心臓でも、Intermacs Profile という分類でそのままでは数日しか持たないProfile-1(NYHA4度でも最重症)は除外するようになって来ています。今回のCRTNYHAクラス2度に広げるのはある意味理解できますただ症状の軽いひとで心電図の条件が合う人がどれだけいるのか気がかりですし、将来心不全の発症や悪化を防ぐために高額な人工物(デバイス)を植込むことの倫理的な問題もあると思います。そもそも高額医療でもあり注目していきましょう。

補足ですが、実際これまで心臓移植の適応となるような心筋症の方が、このCRTで経過をみているうちに(効果がないまま)年齢が進んでしまって移植適応にはならなくなった、ということも少なくないと思います。心不全への多職種チーム医療の重要性は指摘しましたが、循環器内科医と心臓外科医の協同がまずありきではないかということも、CRTの現状をみると感じられます。

https://www.carenet.com/news/journal/carenet/35987

Webや不整脈学会のHPからです。
下に心電図を示しますが、上段は正常で下段が波(QRS)が幅広くなっています。
右はCRTの説明(不整脈学会)。左右の心室の収縮が同期しています。






2014年10月15日水曜日

心不全学会で

先の日本心不全学会で得られたいろいろなメッセージの中で、社会とのつながりとも言えるものがいくつかありました。一つは心臓移植ですが、ドナー不足が深刻であることを社会がもっと知って欲しいことです。日本心臓移植研究会を並列で開催していましたが、発表も移植実施施設からが大半であり、移植への関心は専門家の間でもまだまだ限られているという印象でした。何とかしないと、ということで心臓移植研究会の活動をもっと活発にするための組織改革を進めることとしました。

その他、心不全治療での社会へのアプローチということでは心不全が悪化しないうちに何か手立てを考えよう,という動きもありました。そのかなで市民公開講座では突然死がテーマでした。これも大事なことです。元気と思っていた人が急に心臓発作で亡くなるのは悲しいことであり、何が予防になるのかの啓発が大事です。


もう一つ紹介したいのは先の慢性心不全で紹介しましたBNPです。心不全の進行を判定する上で血中BNPは有用なことを一般の方にもっとアッピールしようという活動です。日本心不全学会では既に学会ステートメントを出して心不全の予防にもこれを活用しようとしています。心臓病の方はこの検査を受けて自分の心臓の状態を知ろう、BNPを心不全の早期診断に生かすという趣旨です。今回、一般向けのパンフレットが出来たので、ここでも紹介しておきます。

 

2014年10月14日火曜日

心不全と多職種連携によるチーム医療

 台風19号が日本列島を直撃しています。関西は明け方までに通り過ぎましたが、東北・北海道はまだ気が抜けない状況のようです。何とか落ち着いて美しい秋を迎えたいのです。さて、少しご無沙汰しましたし、生涯教育と旗を上げながら第二弾が出せなく申し訳なく思っています。
今回は看護師の生涯教育の話しをと思っていろいろ考えていたのですが、先週末に大阪で日本心不全学会というのがあり、そこでの話しにしたいと思います。この学会は第13回ですが初めは参加者も少なく演題も基礎的なものが多かったのですが、約10年前になりますがそれまで日本心臓移植研究会を2月前後の外科系の学会に併せて行っていたのを、循環器内科の方々にも心臓移植に関心を持ってもらいたい,と言うことからこの心不全学会との同時開催にしました。心臓移植研究会は今年でもう第33(年1回開催)になりますが、今回も心不全学会との同時開催しました。
日本心不全学会の創生期のことを考えますと隔世の感があるほど大変盛況になっていました。心不全への関心が高まっている証拠にコメディカルの方の参加が大変増えていました。その背景には、植込み型補助人工心臓の登場もありますが、心不全,特に慢性心不全の治療やケアにもチーム医療が必要,という現場の大きな流れが始まっていることです。心不全へのチーム医療、ということで今回の心不全学会では朝から一つの会場をそれにあて、プログラムには赤いハートマークを付けていました。そこには教育セッションもあり、口頭発表もありで,会場は満席で廊下や他の部屋で発表を流していました。チーム医療セッションでの主な参加は看護師ですが、学会の方に聞くと薬剤師やリハビリテーション(理学療法士)関係の方も多かったとのことです。
医療での多職種協同ということが広く浸透してきて、高齢者、在宅医療、終末期医療、などのキーワードと共に盛んに見受けるようになりました。慢性心不全治療やケア(終末期も含むのですが)でもその必要性が求められています。これからは医師(循環器専門医や心臓血管外科専門医)だけではなく、他職種のスペシャリストも加えた心不全チームが必要であると言うことです。勿論,心不全といっても大人から小児、急性から慢性、移植や人工臓器、緩和医療、など多彩な分野であり、それぞれに特化したチームも必要になってきています。
そう考えると各専門職は生涯教育のなかで、どうチームを作るのか、その中で自己の役割分担は何なのか、もしっかり自覚することも大事になってきます。以前、コアコンピテンシーということを紹介しました。医師の初期教育の目標に、医学知識も大事ですがコミュニケーション能力、自己研鑽の上での医療への参加、そしてプロフェッショナルの理解、と言うのがありました。このことは、どの職種(特に国家資格を付与された専門職)にも共通することと思います。そういう役割が出来る専門職資格(認定制度など)者を医療現場がどう支えるのか。職場での相互理解を支えるシステム作り、そして資格取得者への待遇面での支援、が今後求められるでしょう。 心不全という領域では,看護の認定看護師制度では、慢性心不全看護分野の認定制度があり、本年10月現在184名が認定されています。また、その8割が病棟勤務であることが特徴でしょう。看護師以外にも、薬剤師、理学療法士もこの分野で認定制度が動き出していることから、今後の活躍が期待されます。

ということで、心不全領域でもチーム医療が求められ、それを支える具体的な多職種連携が始まってきていることと、それを支えるのは各分野の生涯教育・認定制度の充実でしょう。今後の動きや発展が注目されます。

2014年10月8日水曜日

 青色LEDノーベル物理学賞受賞の快挙

  いや、素晴らしいですね、3人とも日本人。日本の科学研究の凄さを世界に発信です。受賞発表での担当者のコメントも面白かったし、まさに世の中を明るく照らす発明です。米国にいる中村教授も溜飲が下がった、というところでしょう。久しぶりに科学技術の素晴らしさや、一流、あるいは超一流、の研究者の努力とは何かも思い知らされ、興奮しました。

2014年10月4日土曜日

 医療人の生涯教育について  その1 専門医制度


    福岡での日本胸部外科学会が終わりましたが、表記について考える機会にもなりました。これまで医師の専門医制度や看護師や薬剤師の生涯教育など何回か取り上げたテーマですが、最近少し考えることもあり、取り上げてみます。このテーマは医療の質の担保や安全管理、そして何よりも医療にかかわる社会的資産(リソース)の有効活用に対する社会の関心や期待にも関わることです。ということですが、まずは医師の専門医制度から入ります。ポイントに絞って書くようにします。
医療専門職に限らず弁護士でもそうですが、国家資格を取ったとたんに生涯教育が始まります。医療専門職では臨床現場で患者さんの診断治療やケアをしながら先輩から教えてもらうオンジョブトレーニングが基本になっています。徒弟制度的なところもある中での自己研鑚です。しかし、基本は出来てある程度任されるようになっても、ある一定レベル以上の専門分野を任せられる能力や資質を育てるには限界があります。そこで、第三者が関わる認定制度といったものが必要になっているわけです。専門医やその他の職種でもそうですが、我が国では認定制度で括られています。しかし、米国や欧州ではそのバックに生涯教育、継続教育、という名称がしっかり出てきています。その視点が我が国では薄いと言わざるを得ません。
まず医師についての専門医制度改革です。ここ数年で認証(認定)制度が変わろうとしていますが、後に悔いを残しかねない大事な節目になっています。今回の改定の主旨はまず学会や医師会を中心としたギルド意識からの脱皮です。そして論点としては、①自分たちの領域の発展を専門医制度を通して考えるという視野でなく、医師初期臨床研修後に長く続く連続(生涯)教育の制度を作るという大きな目標が基盤にあるのか、②資格をとれば何らかの処遇改善や健康保険制度でのメリットが付くことを将来的に約束できるのか(インセンティブ)、③基本となる専門領域(内科外科では2階も含みます)では地域医療の充実にも貢献する視点を持っているのか(国主導の医師の地域配分へ反発して自分たちの都合で地域医療の問題を返って悪くしないか)、④国際的標準(グローバル)を考慮するのか、そして最後に⑤プロフェショナルオートノミー(学会の見識)を名前だけでなく自己評価を含めて適切に発揮できるのか、といったことかと思います。
すべてなおざりには出来ないことなのですが、ここまで目標を掲げるには今となっては議論や準備不足で、先に新制度開始年度が決まり本質的な議論や学会側のコンセンサス作りが出来ないままに進んでいるのが現状と思います。とはいえ、新たな制度作りに個人的に関わったことですが、トレーニング(後期研修)を指導責任者が病院群を作って計画的かつ実のある内容にする、所謂プログラム制、が曲がりなりにも始まることは大きな進歩と思います。このプログラム制を形だけにしないよう、特に最初の教育部分(認定プログラム)を充実させながら、それに外れた施設は更新制度(まさに継続教育です)で分担してもらう、など病院の役割分担(棲み分け)も必要でしょう。更新制度の柔軟な扱いや充実が専門医が臨床現場で信頼される道と思います。
身近なところでは心臓血管外科専門医や呼吸器外科専門医のことが今回の福岡の学会で議論されました。といっても自身はあまり参加する時間がなく、いろんな大学の先生とのお話で得たのがきっかけです。 新たなプログラム制はいわば旧来の大学医局制度の刷り直しでもあります。初期臨床研修制度で医師の配分制度が半ば崩壊し、地域医療にも影響が出ているのは明らかです。学生教育は文科省、医師になれば厚労省が、というふうに臨床研修制度を使って継続性のない医師育成制度にしたことの功罪が議論されてきました。医師を育て医学の発展に絶対的な役割を果たして来た、また果たすべき大学医学部や附属病院の役割が弱体化し、若手医師に人気がなくなり、ひいては必要悪?(私自身も関わってきた責任がありますが)でもあった医局制度(関連病院への人事権)がかなり崩壊したわけです。このままでは医療は崩壊する、という危惧もあり、新制度でのプログラム制はある意味、大学医学部講座(あえて医局とは言いませんが)の頑張りを期待(復権)してのことであると私は大きな声では言えませんが思っています。
ただ、ここでまたぞろ旧態依然とした医局体制が復活してはいけなのです。プログラム制認定基準の基本は示されていますが、各制度はこれをどう組み込むかが注目されます。外科系では研修医(レジデント、卒後3年以降)にしっかり手術経験をさせるために、一つのプログラム(病院群)で必要な手術総数があり(指導者数も大事です)大凡の受入数が決まってきます。これがある意味外科系のプログラムの基本になります。しかし、この数に捉われて、無理に病院を集める(まとめる)という、あるいは巨大なプログラムを作ってしまっては、悪い意味での古い医局制度を復活させてしまう危険があります。
医学部の外科系教授はこれから大変苦労すると思いますが、いくら風呂敷を広げても全国で来る人数(心臓外科ではせいぜい200人位)は大体決まっています。3-5年後に検証が始まったときに、その内容が問われることのないように、具体性のある計画がいります。こういう苦労を積み重ねて行くことで外科系志望者が増え、地方にも若い外科医が行くようになっていくことを願うわけです。そういう意味からも、第三者機関や各制度のプログラム認定委員会の役割は大きいと思います。現状の医療を混乱させないことも大事ですが、それがために何も変わらなかったではそれこそこの制度改革は失敗します。

大学の指導者も、最初の論点の①をよく考えて欲しいし(これは国の問題ですが)、プログラム作りで大学間の無駄な軋轢を生まないよう、地方大学(こういう表現は使いたくないのですが)で外科医の育成に頑張っている教授やスタッフの意見をよく聞いて、都会主導ではない制度作りを是非して欲しと思います。現実離れしていると言われそうですが、敢えて老婆心としてのまとめとメッセージです。