2015年9月29日火曜日

シルバーウイーク


ご無沙汰しています。大型連休(シルバーウイーク,SW))も終わり、皆様は働きモードに切り替えられているでしょうか。私はSWの余韻が残っていてまだ休みムードです。といっても海外旅行ではなく、能登半島でのサイクリングでした。
今年のロードバイクでのロングライド、100キロメーター以上のコースをのんびり走るイベントですが、参加としは4つめでした。これまでは5月6月は丹後半島と奈良盆地周囲、9月は城崎温泉から但馬地区を回る山岳(?)コースで、実は丹後半島以外は途中棄権に終わっています。今回の能登で何とか完走率5割に戻したいところでした。
ツール・ド・のと400は能登半島を3日かけて400キロメーターを走破するもので、もう27回目で、今年は北陸新幹線金沢開業記念ということで21,22,23日に開催されました。金沢大学の先生や関西の心臓外科の自転車野郎が10人程集まっての参加で、3日間ではなく中日(22日)だけ参加出来る1日コースでした。それも160キロもある長丁場で、輪島から北側の岬を越えて東海岸を下り、桜峠というきつい登りを終えて、空港の横から穴吹におりてきて、最後は能登島の公園がゴールです。途中に休憩所と昼食がもらえるところもありますが、3箇所のチェックポイントは時間制限があり、8時前に出て18時にはゴールしないといけません。落後したら自衛隊の黒い装甲車みたいなものに積まれて帰るというものです。
前夜は和倉温泉で軽く宴会、早朝に輪島までバスで自転車とともに運んでもらっての8時前のスタート。坂はとにかくゆっくりゆっくりと登って、景色も少しは楽しみながら何とか時間ぎりぎりでゴール。完走率5部に戻しました。天気が素晴らしく、風もなく、最高のサイクリング日和でした。途中の景色もあまり余裕はなかったですが、要所はチェック。これまで淡路島の一周イベントも参加していますが、それより10何キロも長く、坂も結構あって、最後の15キロほどはアップダウンもあって、ほんときつかったです。でも完走できて、帰る前に温泉に入って満足、というところです。
3日間コースの参加が300人位で、一日コースは150人弱でした。こちらは1日コース(一番長くて坂もきついのです)で顎が上がっているのに、皆さん3日間、400キロもよくやる、と関心です。能登半島は、NHKの朝ドラ、まれ、の終盤ということで盛り上がっていました。主題歌がスタートとゴールで鳴っていました。高速道路も整備され、街もきれいで、快晴に恵まれたこともあって、すっかり能登が好きになりました。といっても来年400キロを走る積もりはないです。後は、10月の淡路島が今年の最終です。






2015年9月14日月曜日

臓器移植関連学会協議会


 この夏からの異常気象、特に記録的な集中的豪雨は、先週とうとう甚大な水害を起こすに至った。茨城県常総市では津波のような洪水で、水害の恐ろしさを見せつけた。宮城県でも洪水が発生している。これを書いているなかで阿蘇山の噴火も起こっていて日本中で自然の脅威が続いている。水害被災地の一刻も早い復旧を願うものである。
さて、昨日は日曜日であったが東京で臓器移植関係の会議があった。臓器移植に関連する学会や研究会などが一堂に会して、臓器移植の円滑な推進を進めるための協議会で、始まってもう10年近くになる。厚労省の管轄する会ではなく、アカデミアが集まって現場の意見をまとめて国に提言する会である。東京女子医大小柳名誉教授が代表世話人である。私は日本心臓移植研究会として参加している。当初は移植に直接関連する学会と研究会であったが、今は外科系だけでなく内科系、そして提供に関わる救急医学や脳神経外科関係、透析医療や小児科関係、看護関係、臨床倫理学会、など総数40近くになっている。厚労省の臓器移植推進室から室長がオブザーバーで参加してもらっている。
日本臓器移植ネットワークの混乱もあるが、それは報告のみで、昨日はなかなか中身の濃い議論があった。その中の大事なことを紹介する。
一つ目は法的脳死判定の前に行ういわゆる臨床的脳死判定についてである。患者さんが脳死状態になった後に主治医が家族に臓器提供の選択(オプション)提示する際、何処まで厳密な脳死判定が要るのかについては議論があった。法的脳死判定に近いものが要求されると、提供の場合には脳死判定を3回も繰り返さないといけなくなり、患者さんにも現場にも大きな負担になる。このことについては、今回厚労省は、法的診断の前は「脳死とされうる状態」と定義して、各施設が普段の臨床での検査に準じて判断して良い、ということになった。さらに法的脳死判定ではその施設に2名の資格を有する医師が必要であったが、1名は外部の施設からの応援でも良いこととなった。がんじがらめの規制からようやく現場の意見が取り入れられ、緩和されたことは歓迎すべきである。
その他、提供施設の負担軽減策や心臓移植の18歳未満のレシピエント選択基準が少し変わったことなど紹介されたが、もう一点は、厚労省の関係委員会等で決めたことはないが、大事なことが議論された。小児の脳死での臓器提供では虐待がないかの判断が必要である。これが大変難しく、児童相談所や警察への問い合わせなど、その手続きが家族への負担となり、結果的に臓器提供に至らなくなった事例が少なくないことも指摘されている。このことは私自身、かねてより何とか現場に負担なくスムースの判断できるようにならないかと思っていたので、協議事項にはなかったが厚労省の室長に現状について、また今後の対応について質問させてもらった。以下その内容である。
ガイドラインには虐待について、虐待があったり、その疑いがあれば提供が出来ないとある。しかし、どういう場合に疑いとするのか、どこまで虐待の否定を徹底するのか、など現場では難しい判断が求められる。この問題については、特に新たに行政で何か決めたということではなかったが、厚労省は何とか円滑な手続きが出来るよう説明や配慮をしているとのことである。児童相談の協力もそこに含まれているようであった。厚労省の対応はさておき、参加学会で関係する所から実際の問題点や要望などが出され、結構盛り上がった。小児科や小児救急の先生方からの現場で苦労されていることと、具体的問題提起もなされた。要は、虐待の可能性のない、ということの証明をどうするのかについてもう少しはっきりさせて欲しい、ということであった。予定外の話しではあったが、有意義な議論がなされたと思っている。今後、行政とこの協議会がより詰めた協議をして欲しいと要望させてもらった。

ということで、臓器提供の仕組みもようやく角が取れてきた感じがするが、臓器提供を根本的に増やすことについては、まだまだである。しかし、国会議員の有志の集まりがあって(臓器移植停滞に関する解決策を見出す勉強会)、臓器提供でない場合の脳死判定料算定など検討されているようで、その動きにも期待したいところである。日曜の午後、2時間の会議であったが、何か少前進していることを感じながらの新幹線での日帰りとなった。

  補足:
 改訂された大事なポイントを忘れていました。
 法律のもとでの脳死判定は2回行われ、死亡診断書が書かれるのですが、これまでレシピエント候補へのドナー情報の連絡(施設へ)は6時間間空けた2回目の判定が終わらないと出来なかったので、受ける側の判断の時間的余裕がなく、かなり慌ただしく患者さんへ説明等が必要でした。そうしているうちに時間がたってドナーの循環状態も悪化する心配が出てきます。これまで、1回目の判定で仮ではあるがレシピエントの選定を始めて、ネットワークから施設への連絡をして欲しいと長く要望していたことです。それがやっと可となったとの報告でした。これで少しは移植施設側も余裕ができるのではと思います。ただ、移植ネットワークにこれまで以上の複雑な対応が求められることのないようにしてほしいと思います。以上追加です。

2015年9月8日火曜日

骨格筋芽細胞シート厚労省薬食審部会で承認;再生医療等製品として初

阪大の澤教授はこの10年ほど心筋再生医療で非常に頑張っているのは皆さん良くご存じと思います。再生医療のトップランナーとして実績を上げながら製品の企業化でもリーダーシップを発揮し、新しい認可や製品化の仕組みを行政に作らせている。先日、テルモ社が表記のプレスリリースを行ったことが報じられている。再生医療製品として初として保険医療の元で臨床応用が始まるのは、骨格筋芽細胞シートと言われるもので、対象は虚血性心筋症である。私が阪大在任中に澤現教授グループが動物実験で検討を始めたもので、10年掛かったとはいえ保険医療で実施できるまでになったことは正直驚いているし、またその努力に敬意を表したい。
骨格筋組織の中にある筋細胞(筋繊維)になる幼若な細胞(筋芽細胞)を選び出してこれを増殖させ、東京女子医科大岡野光夫教授の開発した細胞シート作成技術を駆使してシート状に細胞を並べ、それを心臓の表面に貼り付ける、というものである。今回の承認の特徴は、まだ臨床試験で成果が確実でないが所が残る開発途上の治療について、ある意味で見切り発車の仕組みが認められたことが大きいと思う。従って期限付きの承認で、5(であったと思う)後に成果を検証して保険医療に適していれば本承認し、成果が出なければ承認は継続しない、というものである。この制度は補助人工心臓の開発製造承認ガイドライン作りでも提案したもので、欧米では良く行われていル仕組みである。少数の臨床例では効果が期待されるがまだ本格使用(保険医療)に課題があるものを、企業が販売しながら(ある意味保険医療)臨床治験を進めるものである。こうでもしないと開発企業が資金面で耐えられないからである。日本もやっとこの仕組みが始まったということでも大きなステップである。テルモ社も細胞シート作成技術を自社で確立し、臨床治験を済ませてここまできた努力は阪大と共に評価される。
そもそも心筋ではなく、人が運動や市姿勢を維持するときに使われ、働く仕組みが違う骨格筋の細胞を心臓になのか、ということから解説がいる。心筋も骨格筋も横紋筋(消化管や血管壁の筋は平滑筋で自律神経支配)であるが、骨格筋は随意筋で人の意志によって収縮するが、一方、心筋は横紋筋でも不随意筋と言われ人の意志に支配されないことや疲労しないといった特徴がある。性質的にも遺伝子的にも違うとはいえ骨格筋の基の細胞(いわゆる幹細胞ではないが)に心筋様の作用を期待する研究がヨーロッパで以前かなり進められた。
初めは背中の広背筋と言われる大きな筋肉を血管や神経の枝付きで背中からはがして肋骨の間から胸腔に持って行って心臓に貼り付ける、という方法が行われた。単に張るのではなく、この血管付き筋肉片を特殊なペースメーカーで刺激して疲労しない不随意筋様に変化させて心臓の補助をするものである。機械ではなく自分の筋肉で心臓を助けるというコンセプトであたった。日本では臨床応用寸前まで行ったが、結局はものにならなかった歴史がある。
その後、自分の筋芽細胞を心筋梗塞患者に注射器で直接注入する研究がヨーロッパで行われた。しかしはっきりした効果が見られず返って不整脈を起こす危険もあり臨床に広く使われるには至らなかった。阪大グループは注射ではなく細胞シートにしたことが成功した要因であるが、心臓の表面貼り付ければ心臓に同期して収縮してくれれば心機能の改善になる、という仮説の基で動物実験が進められた。しかし、面白いことに収縮作用(ポンプ補助作用)はないが何かしら心機能を改善させる効果があることが分かってきた。そこに目を付けたのが偉いが、研究成果でサイトカイン(一種のホルモン)という物質が出て心筋に染みこんでいって弱った心筋を助ける、という理論が実証された訳である。ここが新たな発見であった。虚血性心筋症では心筋への血流が傷害されていることやまだ生き残っている心筋細胞を元気付ける、ということで今回の対象は心筋梗塞後でバイパス手術に適しない患者さんである。ということで、5年でどういう結果が出るか期待したい。
補足であるが、テルモの発表の後で、また澤教授がこの治療法を拡張型心筋症に医師主導の臨床研究で進めるという。心筋細胞自体の病気である拡張型心筋症に効果があるのか。もし効果があるなら、虚血性も同じであるが、その細胞シーの本質的なメカニズムが解れば、薬での心不全の治療に還元されるという期待も大きい。そこまで来れば、正に再生医療となるであろうと想像する。というのは、シート治療は心筋細胞自体を再生さえる(心筋細胞が増えるなど)ものでは多分ないので、本当の意味での心筋再生は胚性幹細胞やiPS細胞の登場になるであろう。とは言え、小児の心筋症への細胞シート治療も早く実現させて欲しい。