2017年9月30日土曜日

札幌にて


 昨日まで北海道札幌市で開催されていた日本胸部外科学会から帰ってきたところです。第70回という節目の記念すべき学術集会で、北海道大学の心臓外科・呼吸器外科講座の松居喜郎教授が会長で盛大に行われました。大通公園の近くの大会会場は隣合わせですが3つに分かれ、その中で9つの会場があり、ポスター会場を含めると10以上となっていました。聞きたい演題も沢山ある中での会場選びではやや混乱していました。私は特に発表も座長のような用事もなく、久しぶりに札幌を楽しでもよかったのですが、まあ半分真面目になって勉強してきました。私は札幌生まれで10歳までに過ごしたので、いつ来ても懐かしいのですが、今回はxx歳の誕生日と重なり仲間からお祝いをしていただきました。生まれ故郷での誕生日は何か心に沁みました。

さて、いつものごとく論点整理と課題解決に移りたいのでが、あまりそういった話題は残念ながら少なかったようです。あえて一つを言えば、新専門医制度におけるサブスペシャル領域をカバーする胸部外科学会としての役割が問われたということです。問われたというより、私が問題提起をしたのですが、心臓血管外科の新たな制度設計ではプグラム制で行くことがほぼ決まっていたのですが、この夏ごろの心臓血管外科専門医認定機構でそれをカリキュラム制、これまでと同じ、に戻していたのです。そういうことが評議員会や総会で報告事項として紹介されました。方向性の変更は大変遺憾なのですが、その決め方が上記の機構(胸部外科学会、心臓血管外科学会、血管外科学の代表が参加)で決めて、それぞれの学会は報告したらいいという仕組みであったことを改めて知り、びっくりしたのです。こんな大事なことを学会員には報告だけで済ます(説明はありましたが)ということで良いのか。新制度が始まろうとしている中で、また多くの議論がされている中で、こんな上位下達方式でいいのか、と問題提起をさせてもらいました。関係者の方から、盲点を突かれたという反応でしたが、どうなるでしょうか。

専門医制度が新しくなるのは来年度からで、いわゆる内科や外科、耳鼻科、眼科、などの基本領域(1階)はプログラム制で準備が出来、10月から各プログラムでの募集が始まります。対象は卒後2年間の初期臨床研修が終わる人たちです。ある程度の定員制ですから初期研修制度のようなマッチング方式になりますが、どう進むか大変注目です。これがうまく進まないとその後の全体構想に大きく影響しますから、関係者はピリピリしています。一歩間違うと、官製(管の管理)制度になるからではないでしょうか。医学会(界)はここが踏ん張りどころで、関係する学会は自己保身ではなくこれからの若い医師をどう育てるかを第一義に考えて欲しいと思います。自己反省も踏まえてです。

学会のなかで面白かったのは、私が20年位に発表した手術方法を使っての発表がありました。肥大型心筋症の手術ですが、内視鏡を使った応用でそれまでアプローチに限界があったところを克服していました。特にコメントはしませんでしたが、きちんと私の論文を紹介してくれていたので満足でした。また、古巣からの発表では、小児の心臓手術で大血管転位症へのスイッチ手術(ジャテーン手術)の長期遠隔報告があり、もう30年くらい前になりますが、この手術の導入早期の症例が無事成長し成人になっているのを確認できたのは嬉しかったことの一つです。


といったことでいろいろ有意義な学会で、楽しめました。今回は札幌郊外へ足を延ばすことは出来ませんでしたが、冬には学会とは関係なく出かけたいと思いながら帰ってきました。今週は衆議院解散で世の中大騒動ですが、学会中は北海道のニュースが見れたので興味深かったのです。その中で横道孝弘氏が政界から引退するというニュースもありました。衆議院議長も勤められた北海道屈指の政治家ですが、実は小学校の1年先輩の方です。勿論、小学校時代の記憶はありませんが、同窓としてご苦労さんでしたと申し上げたいです。これで今月も目標?の3つ目を投稿出来ました。

ここ写真は札幌ではなく、静岡県のお寺のお庭です。学会前に遅い夏休みで出かけてきた時の写真で、このブログの背景にも使っています。


2017年9月26日火曜日

単回使用手術器具(SUD)の再使用

 
最近の医療関係で新聞沙汰、関西だけ、になっている一つに手術器具の再消毒による不法な再使用があります。整形外科や脳外科で使う骨に穴を開けるドリルの先につける金属製のバーです。私は整形外科医ではないので不勉強ですが、沢山の種類があって場所や使用目的で使い分けるのでしょうが、複雑な構造ではない金属製(と思います)の先端に刃の構造がある棒(バー)です。これらは国が製造販売認可した、単回使用医療機器(ほとんどは輸入品)、ですから、再消毒(滅菌)しても使ってはいけないものであります。他の患者さんに使ったものをいくら消毒しても感染症を完全に防ぐことは出来ないし、機能が劣化しては医療事故になりかねないからです。手術による感染といえば、以前(1980年代)にあったのは狂牛病、クロイツフェルト・ヤコブ病、があります。脳外科手術で起こったことですが、日常の手術でも再使用は致死的な感染がないからといって許されるものではなく、広い意味での健康被害が生じる危険があるからです。手術傷のちょっとした感染でも入院期間が何倍にもなってしまいます。医療費がとんでもなく高くなります。

単回使用医療機器は、single use deviceSUD)、使い捨て機器、と言われていて、現在の手術用の機器や医療用カテーテルはすべてがそうなっています。このSUDの再使用問題はもう20年近く前に遡ります。内視鏡外科手術が導入されたころ、プラスチック製の簡単な器具、皮膚の貫通部に置く筒、でも高価であり、十分滅菌すれば完全であるといって、多くの施設で再滅菌・再使用がされていました。もったいない、手術経費減らそう、ということで各病院が自己判断と自前の方法で再滅菌していたのですが、感染症、器具の不具合の危険性があり、国が再使用を禁じるに至った経緯があります。今、整形外科の骨用バーでは病院長が謝罪の記者会見をしていて、マスコミは鬼の首を取ったかの如く扱っています。確かに再使用は健康被害が出かねないので禁止されていて法令違反になり、場合によっては医療費不正請求(不整脈用カテーテル器具でありましたが)になりますが、今回の骨用バーとはどういうものかは知らされず、単に再使用禁止品の不正使用と、としてニュースが流れています。ニュースも、単に悪い奴、ということではなく、そのバーというものがどういうものであるのか、きちんと紹介することも必要でしょう。何も再使用をサポートするものではないのですが、そこにある何故そうするのか、ということまでの突っ込みがあれば良いかと思うからです。

最近ではある有名私立医科大学病院が経営破綻か、といったことも報道されていますが、このSUDの違反使用の背景には、医療コスト、特に手術費用(手術の保険点数ですが)や病院経営に関係する医療事情があるからです。手術の保険点数は決して高くありません。何とか人件費を減らし、医療機器代を減らさないと、大きな手術をしても最終的には赤字になりかねない状況が起こりかねないのです。しかも使い捨て機器はほとんどが輸入機器であることも問題でしょう。整形外科で腰椎の手術をしても、手術自体の保険点数(技術料)より使った輸入品の医療機器(体内埋め込みですが)の方が高いのです。その医療機器代は海外に行くのですから、必然的に高く設定されています。しかし、何といっても今回の骨用バーもそうですが、骨に1cmの穴をあけただけで、後は捨てる、開封して手術台に載せても使わなかったものまで廃棄するわけです。まさに資源の浪費であります。少し乱暴ですが、そういった背景が絡むSUDなのです。でも、国もやっと重い腰?を上げました。

ニュースでは、平成29731日に、厚生労働省は、再製造単回使用医療機器に係る制度の導入に関する施行規則等の改正等及び通知等の発出を行いました、とあります。以下、厚労省の説明文です。
再製造単回使用医療機器は、単回使用医療機器(一回限り使用できることとされている医療機器)について、医療機関において使用された後、医療機器の製造販売業者がこれを収集し、検査・洗浄・滅菌等の処理(再製造)を行い、同一の使用用途の単回使用医療機器として再び製造販売するというものです。米国においては2000年代初頭より、EU諸国でも20175月に再製造に係る規制を含む医療機器規則(MDR)が施行されるなど、再製造単回使用医療機器に係る制度が既に導入されていることなどを踏まえ、本邦でも導入をはかることとなりました。PMDAとしても、再製造単回使用医療機器に係る制度への対応について、厚生労働省とともに取り組んでまいります。

ということで、医療機器の世界も変わってきます。ただ、これは再製造であり、分解して完全に滅菌して、新品と同じようにして販売するもので、院内で行うものはありません。コストはどうなるのか分かりませんが、安くなるというより資源の再利用の意味が大きいのかもしれません。米国では、腹腔鏡用血管シーリングデバイス ・トロッカー ・超音波診断用カテーテル ・電極(EP)カテーテルなどです。今、身近の話題では、人工心臓があります。補助人工心臓は機種によってはこれが対象となります。分解してごく一部の部品は取り換えるとして、殆どが再使用可能な金属性(チタン製)で出来ているからです。ただ、患者さんに使用したものを再使用できるかどうかはこれからです。

SUDに関係した最近のニュースの解説をコメント付きで書かせてもらいました。大学病院ともあろうものがトンデモないというだけでなく、その背景も知る必要があります。とはいえ、医療従事者こそコンプライアンスへの意識と実行が必要であることを改めて肝に銘じなければならないことは当然です。それにしても、心臓外科もそうですが、最新の医療機器、デバイス、に外科医が翻弄されていて、本来の外科手術とは何かを見失いそうな今日この頃です。

2017年9月11日月曜日

旭川にて

皆様、ご機嫌如何でしょうか。こちらは9月に入ってのんびりモードからギヤチェンジというところです。
9月に入ってからは先ず東京での日本人工臓器学会が例年の11月とは違って早く開催されました。法政大学の生命科学部山下明泰教授が会長で、飯田橋近くの法政大学キャンパスで開催され、一日だけ参加してきました。人工臓器学会は多くの体の臓器の代行をする人工的手法の学術を対象にしていて、当初は人工透析が対象の学会ですが、最近は人工心臓関係が幅を利かせているようです。会長が基礎系、理論系ですからいつもと違った雰囲気でしたが、結構盛り上がった学会でした。なかでも補助循環関係が多く、看護師、臨床工学技士の参加も多く、賑わっていました。こういう学会は臨床系だけでなく、機器開発や技術開発に関わる基礎系・技術系の研究者が大いに活躍してもらえる場でないと、国産の技術や機器が出てきません。海外の医療機器の使用経験の話では先が暗いです(自己反省しきりですが)。
補助人工心臓分野では、植込型が普及し心臓移植の34倍の患者さんがこの状態で移植待機中のなか、移植を目指さない永久使用(DT)が学会では最大の関心事です。この臨床治験も症例登録は済んで来年には保険適応にするかどうか検討されるようです。確しかに心臓移植は年間50例とすれば34倍の患者さんが待機するわけで、34年の待機期間は異常です。といって、永久使用(Destination Therapy)は建前上移植適応ではない患者さんが対象ですが、まだまだいろいろ課題はあります。米国ではものすごい勢いで普及していますが、心臓移植も年間2000例は行われるなかで、比較的高齢の方への適応が進んでいるようですが、移植待機とのミックスしたところもあります。柔軟に対応し、患者さんの意思の尊重が優先されます。日本ではどうなるのでしょうか。65歳以上で心臓移植対象外の心不全の方には確かに福音かもしれません。しかし、高齢者医療の社会的基盤や医療現場の理解はまだまだ不十分です。試験的に進めることはあっても健康保険で扱うかは大きな問題でしょう。
補助人工心臓は今の適応とされる移植待機患者さんとこの永久使用の対象患者さんの二つの大きく異なる対象者の間には、どちらとも決めかねる患者さんが結構多くいます。今、保険制度上はこの間にいる方は置きざれにされかねない状況ともいえます。この問題は関係の会議で訴えましたが、放置されています。新しい医療の導入もいいですが、対処患者の背景のしっかりした調査なしにどんどん進める傾向にあるのが問題と思っていますが、少数意見です。
高齢者の医療費が高騰し、しかも海外から医療機器に多額の税金が払われるのですから。まずは心臓移植年間200例を早急に実現することへ最大の努力を図るべきと思います。また植込型補助人工心臓では多くの海外の機器が参入してきていますが、国産の機器の開発への国のスタンスは信じられないくらい弱いのです。
植込型補助人工心臓の永久使用では、先に述べたように幾つかの課題が残ってます。大きなことは、終末期医療です。脳障害に陥った方で、緩和ケアになった時の対応、法整備が十分ではないこと、病院や医療従事者の対応が制度的に出来ていないこと、救急医療体制での対応、など心臓移植へのブリッジでの社会的基盤が未整備の状況をまず解決することが大事と感じた学会でした。先進的医療をすべて健康保険で対応するのは限界があります。再生医療もそうです。未だ効果がはっきりしない、特に費用対効果が悪いものへの早期保険適応には疑問があります。再生医療もそうで、エビデンスがまだ十分でないものは、健康保険とは別の基金のような財源でまず進める方策が必要と感じます。先進医療保険のようなものがどんどん進めといいのですが。先進医療や人工臓器治療で高額になる場合、医療者側にも何か歯止めをつける、DPCもそうですが、といった上限設定でも作らないと、そのうち高齢者の高額医療で社会保険制度は崩壊するのではと危惧します。日本の医療制度の、いつでもどこでも最新の医療が自由に受けられる、という仕組みはそろそろ限界ではないでしょうか。病院の集約化でもって医療費を安くしても乗り切れる仕組みが要ります。韓国、台湾も、病床数が2000を超える病院がどんどん出来ていることに、わが国も目を向けるべきでしょう。次の20年を見越した英断が必要です。
本題ですが、先週は旭川でした。日本移植学会で、旭川医科大外科の古川教授(肝移植)が会長でした。臓器移植法制定20周年にあたって、さらなる臓器提供の増加を目指すなかで、レジェンドに学んで継承する、というテーマでした。特に役割はなかったのですが、先日紹介した院内ドナーコーデイネーターについていろいろ意見交換が出来ました。かなり収穫です。というのは、今回の学会は移植側だけでなく、臓器提供側もたくさん参加され、ホットな議論が交わされました。今までにないことです。この学会に初めて参加したという脳神経外科医、集中治療医、救急センター医、が何人かおられ、臓器提供の現場の生の声を紹介しておられました。また、厚労省の臓器移植推進室の方も参加され、行政の考えも整理することが出来ました。
院内ドナーコーデイネーターの資格化はどう進めるのか、という質問を何度かさせてもらったのですが、現場の方からは、資格化はされても個人につくので病院としては必要ないという意見もありましたが、フロアーでの会話では資格制度は必要との意見も多かったようです。一方、移植学会と行政は臓器提供を終末期医療の中で考えて、総合的に対応できる資格制度を考えているとのことでした。個人的には臓器提供というある意味前向きの面があるものを、終末期というやや反するカテゴリーで括ってしまうのは如何がと感じます。厚労省の室長さんとの話しで、包括的な終末期対応の支援制度つくりといっても、やはりドナーコーデイネーターは少し別で、進めるにせよ今のコーデイネーター育成事業(都道府県)を取り込まないと、という意見には賛成のようでした。 尊厳死には法律がないなかで、終末期のコーデイネーターの役割はどうなるのか。脳死での臓器提供は法律があって行われているのですから、もっと専門化してもいいのではと思います。
それにしても、人口百万人当たりの年間の脳死での臓器提供数は、わが国はまだ1.0以下ですが、韓国はその16倍です。日本では心臓移植は年間50例に達し、これまでの総数は350例ほどです。成績も良好です。しかし、待機中の死亡は移植数とほとんど変わりないのです。3年以上の待機でチャンスは二人に一人、という事実を社会はもっと知ってほしいと思います。脳外科医の方が、心臓移植の素晴らしい成績の陰で多くの方が亡くなられ、また長期に待機を余儀なくされている、ということを脳外科医はほとんど知らない、もっと情報を出したら脳外科医の理解が得られる、という意見がありました。まさに時代が変わってきた、と感じたのは私だけではないでしょう。
そうです、移植医側は移植で元気になった方を、子供さんも、もっと社会に出てもらって、臓器移植が素晴らしい医療で、しかも命のリレーです、というアッピールをもっとすべきでしょう。肉親からの生体臓器移植も必要ですが、亡くなった方からの移植の役割の大きなことを社会はもっと知ってほしいと思います。あるいは、知られているが、仕組みがいけないのかもしれません。法制定20周年の節目に、こんな感想です。脳死で臓器提供が年々増え続けていて、潮目が変わった、もうすぐ100例ですよ、という話に安心せず、日ごろから社会啓発に努めることが大事と思います。

旭川での総会は日本移植学会としても節目であり、さらなる発展のスタートになるもので、参加者としても有意義な学会でした。